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Ⅰ.はじめに
心筋に血液を送っている動脈(冠状動脈)が何らかの原因で狭搾・閉塞を起し,その部位より末梢の動脈から血液供給を受けている心筋が虚血状態に陥る疾患を総称して虚血性心疾患と言い,一過性の虚血が起るものを,狭心症(angina pectoris),心筋の一部が壊死を起すものを心筋梗塞(myocardial infarction)と言う.心筋梗塞を起すと心臓の血液ポンプとしての機能が低下して,ある一定以上に激しい運動ができなくなる.そのため就業や日常生活上の多くの問題が起る.欧米では成壮年層にも発症が多く,リハビリテーションの必要性は非常に大きいと言えよう.わが国でも,食生活が高カロリーとなってきたことや,生活様式が変化してあまり身体的活動を必要としなくて済むようになってきたためであろうが,心筋梗塞の発症の増加が著しい.
心疾患のリハビリテーションは“患者が生理的,心理的,社会的,職業的に最良な状態を回復,維持する過程である”と定義されているように,基本的には従来のリハビリテーションと変らない.しかし運動療法の適用対象は従来のものと異なっている.一般的に運動療法はphysical fitnessの低下に対して用いられると言えよう.physical fitnessという言葉の普遍的な定義も,適切な日本語もないが,強いて訳せば,運動適応能力(どれ程の運動ができるか)ということであろう.physical fitnessは筋力,スピード,敏捷性,筋の持久力,仕事率,協調性,バランス,柔軟性,身体のコントロールといった神経筋骨格系の運動能力(motor fitness)と最大有気的パワー,全身運動の持久力といった呼吸循環器系の運動能力(physical work capacity)に分けられる.従来の運動療法は前者に,心疾患のリハビリテーションでは後者に焦点が当てられている.
人が持続的にどれぐらい激しい運動ができるかは最大有気的パワーとして考えられる.有気的パワーは基木的に単位時間当りの酸素摂取量で表わされ,単位としてO2l/分,mlO2/分×kg(body weight),RMR,METs(metabolic Equivalents)等が用いられる.METsは,最近の心疾患のリハビリテーションの分野で使われるようになった単位である.人がゆったりとリラックスした状態では,体重1kg当りの分時酸素摂取量は,3.5~4.0mlO2/分×kgであり,これを1METとしている.それゆえ5METsの運動ならばリラックスした状態の5倍の運動強度であることを意味している.心疾患のリハビリテーションでの運動療法の主目的は自立して社会生活を送るのに十分な最大有気的パワーをできるだけ速やかに再獲得することである.
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