Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
Ⅰ.はじめに
わが国で絵画療法と呼ばれるものは,欧米でいうアート・セラピイ〔Art Therapy(英);Arttherapie(仏);Maltherapie,Zeichentherapie(独)〕に相当するものである.
最近,わが国では,芸術療法という呼称が一般化しているが,これはむしろ絵画,音楽(もちろん音楽療法という言葉はある),造型,舞踏,心理劇などを包括しているものであって,厳密な意味では,この絵画療法はアート・セラピーの中核である.
このような状況の中で,絵画療法について述べるわけであるが,そもそもこの絵画療法が,その対象とするところは広い.
表現行動の可能な児童から成人にいたるまで,その表現された絵画(あるいは描画)を媒体として精神療法的あるいはその他の療法的意義によって治療行為に関連せしめるのである.
この絵画療法は各種の精神療法的治療アプローチを補助的あるいは中軸的な療法的手段として,医療行為の中で価値を見出そうとするのである.
精神病,神経症の患者ばかりでなく,性格的に問題のある症例に対する療法的意義をはじめ,さらに,広くは肺結核や身体障害,あるいは慢性疾患患者のレクリエーション的,あるいはリハビリテーション的な見地からの治療的価値が再認識されている.
しかし,絵画とか芸術とか,いささか文化的臭いのあるものが果して医療行為とどのように結びつくのであろうかといった疑問が非専門領域の識者や一般の人の中の声として聴くことがある.ここにはまだ,人間の行為,人間の心理,人間の生理などを含めた総合的な営為が,真の医療と密接不可分のものであるという認識が醸成されていない.いまだ啓蒙されていない人々の言として理解して良い.精神医学は,すでに科学的な地位と処遇を得ていると同じように,これからの精神医学的領域の関連した人間の治療的アプローチの中において,この絵画療法(ひいては芸術療法)は生命を保ちつづけると思われる.
絵画療法を含めた芸術療法の現況と発展の問題については,徳田らならびに岩井らの記述があるので参照されたい.
Copyright © 1975, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.