特集 呼吸不全
呼吸器系の理学療法―特に呼吸訓練と体位排痰法について
栗原 延子
1
1東大病院リハビリテーション部
pp.257-264
発行日 1971年8月9日
Published Date 1971/8/9
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1518100450
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はじめに
1930年以後,慢性呼吸器疾患の治療として呼吸訓練が喘息,慢性気管支炎,肺気腫などの患者のために行なわれているが,それは,むしろ姑息的療法としてである.この場合の運動の価値は,疾患そのものの経過からみた場合に効果はないが,呼吸の効果的な様式(腹式呼吸)をとりいれることにより,息切れの改善がみられ,楽な呼吸を身につけることができるという利点におかれている.
近年,医学はおのおのの外科分野における手術法や麻酔法の進歩,また,新しい化学薬剤の出現などにより著しく進歩し,それに伴い手術層が,老人から乳幼児までへと幅が広がってきている.老人は特に呼吸機能が低下し,すべての面で生体予備力に関して劣っている.また,壮年層にも慢性の肺疾患や気管支炎をもっている者,麻酔時の気管内チューブのための気道の刺激,術後に投与された薬剤(筋弛緩剤,麻薬)などによる呼吸抑制,傷の痛みのための不十分な浅い速い呼吸,疼痛により咳ができなく,気道分泌物の喀出が困難なためガス交換が阻害され,肺合併症の原因ともなること,開胸を伴う気管支・肺・食道・心臓の術後の肺の虚脱による肺機能の一時的低下などが起こりやすい状態となっている.肺機能の回復を助け,合併症を防止し,全身状態の回復を早めるためには,術後の呼吸管理が重要視される.
このように,内科的な呼吸器疾患や術後の呼吸管理の一端をになうものとして,理学療法部門での呼吸訓練や体位排痰法がクローズアップされる.以下,呼吸器系の理学療法の中で行なわれる①呼吸訓練,②体位排痰法につき,その方法を述べたい.
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