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はじめに
重症心身障害児とは,重度身体障害と重度精神薄弱を伴う者をいう.重症心身症害児(者)の大部分は脳性麻痺である(重症心身障害児を以下‘重症児’と略す).
重症児を知能面からみた場合,重度精薄(IQ35以下)は,成人でも精神年齢でいえば,4歳以下あるいは就学時6歳の知能に達しない者で,社会的にも他人の保護なしでは日常生活のできない者で,教育も一般に不可能であるといわれている.
しかし精神年齢18か月で,日常の運動の経験に関することだと非常に単純な文章が理解できるとGesellが言っている.もし重症児が,機能的に問題がないとした場合,精神年齢3歳で日常生活動作が可能な範囲は,ひとりで食事ができ,簡単な衣服なら着脱でき,手と顔を洗ってふくことができるという.
都立府中療育センターでの重症児の知能検査法をみると,重症児者185名(うち重症児148名)で田中ビネー5名,鈴木ビネー1名,WISK3名で約95%が,発達テストによるものである.遠城寺式乳児分析的発達検査表の知的発達をみると,7-9か月めにまねして机をたたく.9-11か月には好きなおもちゃのほうを取る.あるいは2歳6か月では,3つの絵を言うなど,運動および言語障害がない者を対象とした検査法のように思われる.
Gesellは,正常な発達能力の装備とは,正常な発達の潜在力,正常な感受器(receptor)および正常な作用器(effector)のことであると言っている.重症児の最も大きな障害は,潜在力もあるが,それに伴う作用器の障害である運動および言語障害などである.このような障害児は,普通児と同じような環境では,正常な経験を獲得していくことが困難である.したがってそれに伴う知的発達の遅れが,重症児の中に大なり小なり当然含まれている.したがって作業療法を通じて,機能面の改善ばかりでなく知的面をより促進させることがある程度可能である.手の機能の発達と,知的面の発達とはある程度までは並行関係にあると思う.
一般的な作業療法の定義に,機能面からみた場合‘主としてその応用的動作能力の回復を図るために,手芸・工作その他の作業を行なわせること’とある.重症児の場合は,手の基本動作のできない者が多いことと,精神面からみた場合,ある経験を獲得することは反復練習によって可能であるが(習慣的行動),それを利用して新しい条件に適応すること(知的行動)は困難である.すなわち,これらは精神薄弱の知的活動にみられるひとつの特性であるので,創造力を必要とする作業は困難である.
したがって,玩具などを用いて動機づけして,手の基本的運動パターンを異常運動の原因にあった方法で,筋の再教育を行なうことに重点をおき,手の基本的動作がある程度獲得されてから手の応用動作・食事動作にと進んでいくのが重症児の作業療法としては最も望ましいと思われる.
goal settingとしては,もし重症児が機能的に100%よくなったとしても,知能面からみた場合に社会生活は不可能で,生涯にわたって保護を要するものであるので,自分の身の回りの世話が少しでも自分でできるようにすることである.
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