特集 扁桃—今日の臨床指針
I.扁桃炎とは何か
扁桃炎とは何か
野坂 保次
1
1熊本大学
pp.753-756
発行日 1985年10月20日
Published Date 1985/10/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492210022
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はじめに
「扁桃炎とは何か」というテーマは易しいようで実は意外と難しい問題といえよう。このことは扁桃の機能と深い関りがあるからである。扁桃は上気道基始部の重要な関門を扼し,細菌やウイルス,塵埃や有毒ガスなど各種の有害物質に最初に対応する位置にある。しかもその細胞構成がリンパ球,マクロファージ,形質細胞からなり,さらに複雑で広い接触面をもつ陰窩系(295cm2,Minear)の形態的特徴からも推測されるように,扁桃が免疫臓器であることは近年の免疫学で明らかにされている。
扁桃は免疫応答の経過において,絶えず軽微な感染を許容しながらその機能を営んでいる。このため扁桃は正常な状態においても,組織学的にはリンパ上皮共生にみられるようにある程度の炎症細胞の出現,上皮組織の破壊など生理的損傷physiological woundがみられ,ひいては生理的炎症臓器physiological inflammatory organといわれる所以である。このため正常扁桃と病的扁桃炎との鑑別は,局所の炎症所見や全身症状の明らかな急性扁桃炎や慢性扁桃炎を除けば,臨床所見や病理組織像にしても移行型が多いことから厳密には困難なことが理解されよう。このような観点からは,扁桃炎とは臨床的になんらかの局所の炎症症状かそれに伴う全身症状を現わし,あるいは組織学的に生理的範囲を越えた炎症所見を呈する場合ということになる。
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