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I.はじめに
側頭骨錐体部のX線解剖学は,今まではX線写真で解説されることが多かった。実際の診断には,正面X線像,Towne氏法,Stenvers氏法,Meyer氏法などの単純X線像のほか,多軌道断層を含む断層写真が用いられている。
硬い骨構造の中に複雑な小構造が入り組んでいるために,その構造全体の詳細な把握はなかなか困難である。内耳では骨迷路の中に膜迷路を有しているが,とくに膜迷路の疾患に対しては,いかなる手段を用いてもX線学的形態診断は不可能である。また骨迷路にしても,顔面神経管にしてもその全容を連続した形で把えることは不可能である。従って諸構造の解剖学的関係を予め知った上で,実際の画像を追求してゆくことになる。
CT(computerized tomography)の出現によって,脳の白質と灰白質を識別できるほど精細な軟部組織の描写が可能になった。これは,X線吸収係数のわずかな差を容易に識別し得るCTの特徴といえる。一方,骨構造は,X線吸収係数に大きな幅がある。硬い厚みをもった骨構造の細部を描写しようとすると,コンピュータで計算し得る,また描写し得るX線吸収係数の範囲を大きく広げてやる必要がある。このような要求から,目的部位のウィンドウ幅を広げて骨構造を見易くする超高分解能画像処理システムが生まれ,この方法によって,内耳,中耳の観察はかなり精細に行うことができるようになった。
ポリトームのような薄層多軌道断層方式を用いるよりも,細部にわたって正確に把握できるようになったことは確かである。もちろん,この超高分解能処理のためにはスキャン時間以外に再構成のための時間が必要である。また冒頭に述べたように膜迷路の描写は,現時点では不可能である。
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