ホルネル症候を示した頸部神経鞘腫の1例

A CASE OF THE CERVICAL SCHWANNOMA WITH HORNER'S SYNDROME

　I．緒言

　頸部に生ずる神経鞘腫は頸部交感神経叢，迷走神経，舌下神経など，神経鞘をもつているあらゆる神経から発生するといわれており，耳鼻科領域でもすでに稀なものではなくなつてきている。この腫瘍は発生神経に特有な臨床症状を示すことがあり，それによつて術前に鑑別診断が可能となることは，多くの文献の記載するところであるが，実際には大多数のものが腫瘤を触知するのみで，他の臨床症状を示すことはきわめて稀である。迷走神経鞘より生じたもので術前にその関連症状（咳嗽，反回神経麻痺，胃部不快感など）を示したものについては，すでに数例の報告^1）2）を見るが，交感神経鞘より生じたと思われるもので，術前にホルネル症候を示したものは，耳鼻科領域の文献ではほとんど見当らず，わずかにFisher^3）の論文中に過去3例の記載を見るのみである。今回，術前にホルネル症候の一症状と思われる患側瞳孔のmiosisを示した症例を経験したので報告する。

　There are many reports of Schwannoma occuring in the cervical portion, but Horner's syndrome before surgical treatment is rarely accompanied.

　A 75-year-old woman complained of a gradual enlargement of a painless mass in the right cervical portion. On examination, miosis of the right eye was present, and pulsation was felt on the tumor. The mass was surgically extirpated and confirmed as Schwannoma pathologically, so it was assumed that the Schwannoma might arise from the cervical sympathetic nerve.