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I.はじめに
婦人科領域で子宮癌を細胞レベルで診断する方法がPapanicolaouによつて開拓されてから既に30余年である。その間,細胞診の普及は目覚ましく,肺癌,消化器癌,尿路癌などの診断にも応用され,その応用領域が拡大してきた。しかもTV-レントゲンや内視鏡技術の進歩に伴い細胞採取法の開発が著しく進み,従来の自然剥離した細胞を取扱う古典的細胞診から人工的に剥離させた細胞を取扱う細胞診へと進展して,細胞の読み,すなわち細胞判定基準がその様相を一変するに至つた。しかし耳鼻咽喉科においては食道,気管支を除いて特に悪性腫瘍に対する細胞診の応用は従来よりきわめて低調であつたといわざるをえない。1951年にFriedmann10)が耳鼻咽喉の腫瘍の補助診断法としての剥離細胞診に関する総論的論説を発表したが,その後1953年にはProbstとPfaltz24)がさらに広汎にわたる耳鼻咽喉および気管支,食道の細胞診の総論ともいえる論文を発表した、さらに1958年にHopp13)が,1959年にはBryanら6)が同様総論的に耳鼻咽喉科への細胞診の導入について報告を行なつている。また1968年には田嶋ら31)によつて副鼻腔,口腔,咽喉頭,食道の扁平上皮癌の細胞学的知見についての報告がある。
つぎに各論的な報告についてあげてみると,中耳についてはHouse(1949)14),Bryanら(1970)7)によつて,副鼻腔についてはFitz-Hughら(1950)8),奥田ら(1963)23),渡辺(1966)37)によつて,鼻咽腔の細胞診についてはMorrison(1949)37),Aliら(1967)2)によつて,喉頭についてはAyre(1954,1959)3)4),Whitakerら(1956)36),Umiker(1961)33)坂井(1965)25)26)およびFrableら(1968)9)によつて報告されている。その後この領域の細胞診に関する報告はほとんど見当らない。本年の臨床細胞学会において八木らによつて鼻腔および咽頭領域における擦過細胞診学的検討が,組織学的所見を背景として報告されたことはなお未開発のこの分野の細胞診に開眼の兆が与えられたものといつても過言でない。
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