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I.はじめに
近年の急激な交通事情の悪化により,交通外傷後遺症の"いわゆるむち打ち損傷のめまい"が取り上げられ,種々な話題を世論上になげかけている。これら障害による"めまい"は臨床医家にとつてとらえどころのない難解な問題とされ,診断のため1)2)いろいろな検査が行なわれている。この"めまい"は従来整形外科的に呼ばれてきた頸性眩暈症Barré Syndromと現象的には非常に似ているものである。これら症例中に頸部運動に伴う自発眼振をある一定の頸部運動で認め得る場合がある。そこで頸椎に原因があるという場合には頸椎単純撮影による6方向(前後像,側面像,第1斜位,第2斜位像,前屈像,後屈像)のX線フィルム上に形態学的変化を証明する事が必要である。頸部由来の"めまい"は骨に異常のある場合にのみ起こり得るのではない事は周知の通りであるが,骨に異常なしと診断するためには,単純撮影の一方向からの投影像では像の重なりができるため読影上の限界があると考えられる。そのため,断層撮影や血管造影などが頸椎にも行なわれている。しかしX線診断学上,頸性眩暈症として頸部運動の際自発眼振まで出現する機能障害を証明し得ても,フィルム上では形態異常を認め得ない場合をしばしば経験する。このような時多くは軟部組織などの他の原因によるものと診断される。一般に"むち打ち損傷"の際に起こる頸性由来のめまい現象も,頸性異常によつて起こるめまい現象も機能検査上では非常に似ている。頸部神経根や椎間孔中にある他の組織などが刺激されたり,圧迫されたりした結果として起こる一群の症状である。頸性異常から起こる"めまい"症に関しては神経耳科医の研究報告3)4)5)6)を多数認める。これらの報告からもうかがえる如く,"めまい"として訴えられる平衡異常の原因となる因子は多彩であるが,頸部の諸器官の異常による影響を原因として重視する事では多くの意見が一致している。最近では腰椎に原因する"めまい"の報告7)も文献上認める。X線診断はこの場合,形態異常の証明のため唯一のよりどころとなる。椎間を走る椎骨動脈の造影による一部狭窄などの異常や椎間孔の変形などが一方向撮影のX線像から容易に読みとれる様な場合は幸いである。いわゆる"むち打ち損傷"の頸椎診断の際重要な事は骨に異常があるか,ないか,という事を証明する事が第一である。R.Jackson1)は,上部頸椎の変化を重視しており,椎骨動脈がもつとも高い頻度で狭窄の起こる部位は第3頸椎上部で,特に外傷に対して抵抗が弱い部位である事を実験的にも証明している。しかし著者らは頸性異常のX線診断学上,椎間孔部およびその付近の骨の変化が証明し難いので曲面断層を用いて左右椎間孔の比較し易い方法を試みた。われわれは現在用いている左右45°方向から管球を5°〜10°上方に傾け,そして頭を少し後屈にして,上部頸椎と下顎の重なりをさけるいわゆる椎間孔撮影の第1,第2斜位撮影にいささか不満を感じている。それは,被験者の一寸した頸部のゆがみなどによつて左右を対称して比較できない事である。また椎間孔は椎体の側面と後方関節とが作る筒状をなす管を形成している。これが45°方向からの放射線撮影により接線方向の像が強調されて一寸した頸部のゆがみでも変形像として投影される事である。そこで展開的曲面断層撮影を主目的として開発されたOrthopantomography(panorex)を利用し,これを椎骨,特に頸椎撮影に試みてみた。
そもそも,このOrthopantomographyは顎顔面部の診断用として用いられており,特に歯科領域で用いられ,最近は耳鼻科でも上顎洞の診断にも用いられはじめ,診断的価値が認められつつある。この顎顔面撮影のため装置された顎面軌道(X線断層軌道)に頸椎をあてはめ撮影を行ない,頸椎の曲面展開像の診断的利用を試みたのでその利点および限界について考察し報告する。
A tomographic study on the cervical vertebrae by means of orthopantomograph (panorex) is attempted. To study the various aspects of a columnal body like that of the cervical spine, tomography is quite necessary and useful.
Theoretically speaking, by revising the tomographic area an expanded area of the same plane should be available for the study. Some of the disadvantage of this method is that it cannot be of much aid in the study of the curvature of the spine, anterior and lateral.
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