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I.はじめに
感音性難聴の症状はしだいに明らかにされてきたが,障害部位の鑑別診断についてはまだ確立されない領域があり,原因,治療については十分な研究も行なわれていない。その理由の根本原因は感覚機能それ自身の研究の不足によると思われる。ここに報告するのは,新らしい研究方法によるものなのでその経緯をやや詳しく述べておくことにする。
このような研究方法を考えたのは次のような理由による。感覚受容細胞がどのような機能を行なつているか,正常状態では種々の指標がある。たとえば蝸牛のラセン器の働きを観察するのには,生理的には蝸牛電位(CM),聴神経の動作流(AP),内リンパ電位(EP)それに関連するSummating Potential (SP),神経自身から得られる自発放電などである。このような現象が病的状態になつたとき,どのような変化として観察されるであろうか。その多くは閾値の上昇あるいは反応の消失である。しかし病的状態とは閾値の上昇だけであろうか。その他にも障害されたときに現われる現象があるのではないか,もしあるとすればこのような現象を何かの指標で取り出すことを考えなければならないが,その解決を見出すことが難かしい。このように考えてきた理由の一つには次のようなことがある。臨床例における感音性難聴の聴力像を見ると,閾値上昇だけでは解明し得ない多くの現象があると思うからである。たとえば感音性難聴耳での純音聴力閾値と語音明瞭度との大きな違いである。これは後迷路性のものと判断する前に,迷路性難聴ではこのような現象が起らないことを実証しておかねばならない。正常者にきかせて感音性難聴と等しいオージオグラムを得るような増幅回路を得ることができる。これは閾値の上昇と考えることができる。しかし正常者にこの回路を使って明瞭度検査を行なうと,感音性難聴例と違つて明瞭度が良い。このことは感音性難聴耳には閾値上昇以外に明瞭度を悪くする因子があることを示している。この因子がどこにあるか,後迷路にあるか,内耳にあるか,この解決のために次のように考えてみた。中枢機構を除外して,感音性難聴耳で得られるような現象を得ることができないであろうか。その方法として,ある系を考え,それを通して正常者にきかせ,難聴耳と同様な検査方法を行なう。もし感音性難聴と同様な成績が得られれば,中枢の障害によるものでなく,末梢の蝸牛を出る信号の中に感音性難聴で得られるある現象の要素が含まれることになり,この現象は蝸牛内の障害によつても起り得ることを示すものと思う。
このような観点に立つて,蝸牛の障害から起る難聴と等価な信号を出す模擬回路による実験を考えたのである。この方法については多くの前提条件があるのはもちろんであるが,難聴の原因,対策に対する考察,または研究方法を示唆するものとして実験を続けてきた。まだ満足すべき結果を得たわけではないが,興味ある現象も得られているので,その一端を報告したい。種々論議もあると思うので御批判をいただければ幸いである。
In the study of the differential diagnosis of hearing impairment, a model of inner ear deafness was devised, in which the electric circuit was built so as to change the wave pattern of voice. Audiometry was carried out for the normal hearers through this device. The results showed some similarity to the phenomena shown in case of the so-called central deafness.
This led us to suspect that some of the phenomena considered characteristic to the central deafness might be caused by the inner ear impairment.
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