人物スケッチ・8
牟田哲三郎氏
西端 驥一
pp.699-700
発行日 1965年7月20日
Published Date 1965/7/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492203466
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岩上に聳え立つ孤松と云う厳しい風格の人は教職にある人々にも尠いが,開業医にも多くはない。あるにしても,開業畑の人の方に根が張つて芯が強い感じがするのは,大きな実社会の荒波に揉まれて生き抜いてきたからであろう。併し開業医のこう云う性格の人には,どうかすると,自己中心で,「アク」が強くて眉をひそめさせる傾向が見られる。そこに行くと,牟田博士からは自己を鍛えようとする執念と,周囲の社会に対して尽そうと云う信念の印象を受ける。
併し氏が昔ゴムホーヅキによる小児の窒息死を防ぐために,その発売禁止を学会で大声叱呼した時,私はハッタリ臭を感じた。だがそれはまだ氏の人物を知らなかつたからであつた。日本気管食道学会の決議を携えて,大阪児童福祉審議会に提案し,近畿連合会から中央審議会を通じてゴムホーヅキの発売禁止を厚生大臣に確約させた。この筋を通した粘ばりや業者の脅迫をはね返した度胸に至つては,単なるハッタリでは出来ないことである。かくして,これによる窒息死亡例を消失させた功績は大きい。人類愛と医師の使命観に徹した氏の崇高なる信念をここに見る。
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