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口腔咽頭粘膜Candida性潰瘍の報告が今年になつて急に増加した。抄録程度の報告を入れると約14例1)〜14)になる。この数字は決して多い数字ではないが,今迄非常に稀な疾患と見られていたので多くなつたことが感ぜられる。今年は又本症に就ての山下博士の特別講演が近く行われんとし,C症に対する我が科の関心も急に高まつてきた。我が領域のC症は1954年では6例(稲田15),神戸16),小出17),大井18),飯塚19),原北26)例),1953年では3例(不破21),矢野22),梶川23)例)報告されているから急増である。この急な増加は抗生物質を使用するようになつてから起つた現象であるが,だからと云つて抗生物質がその発生を起したと見做すことには疑問がある。之等の例では発病前に多量の抗生物質を使用されていないものが大部分であるし,又抗生物質が用いられ始めてから相当の期間を経ているからである。この点は汎発性C症,又は全身性のC症(肺,胆嚢,胃腸其他)の発症とは異つたものと見做さゞるを得ない。之等のものゝ多くは,白血病,悪性貧血,結核其他重要疾患である基礎的疾患があつてこれに抗生物質を用いた際に続発的に起つたものが多いからである。実験的にもCandidaにAureomycinを併用すること二十日鼠の死亡率の増加した成績がある。(Brown et Hazen24))抗生物質は個体の或条件ではC症を起す原因になつていることは確かであるが,我領域の局所的な粘膜潰瘍でははつきりそうだと云える例は少ない。抗生物質殊にスペクトルムの広い抗生物質を用いることによつてC症が起るためには,他に全身的な強度の抵抗減弱の状態が必要であるようである。この問題はC症の発症の問題になるから茲では論を避けるが,C性潰瘍の報告が多くなつたのは発見の増加が大きな原因であると見らざるを得ない。本症と最もまぎらわしい結核や化膿性感染によるものが抗性物質の出現によつて容易に影響を受けるようになつた今日では原因の不明なものはmycotischなものと思わざるを得ない状態に立入つたゝめと私は考えている。私の考えを裏書きするのは次に述べるようにC性潰瘍のうちには,結核,梅毒又はアフタ性潰瘍に極めてよく似た型のものが存在しているからである。
臨床家にとつては菌学的や組織学的な検索よりもC性潰瘍はどんな形をしたものかと云うことが最も知り度いことである。個々の少い報告例からはC性潰瘍の特徴ある形態や性格を把むことは仲仲困難である。文献例を読んだゝけではどんな潰瘍かと云うことははつきりしていない。
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