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田中 宏先生を偲んで
佐藤 良夫
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1新大皮膚科
pp.444
発行日 1966年4月1日
Published Date 1966/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1491204352
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- 文献概要
春浅くして日本海の波荒れる2月正7日午前11時47分,恩師田中宏先生は十二指腸部膵管癌のため遂にご逝去された。昨年10月末の手術を受けられる約1週間前までは私共も悪性のものとは知らなかつた。神にも祈るような気持でいた私共は,開腹後多数の転移を示す癌を目の前にした時,ただ荘然とせざるを得なかった。それ以後はなるべく遅くまで病気にお気付きにならないようにと主治医側共々努力し,胆石症の手術ということにし,誤魔化してきたわけである。正月頃の旺盛な食慾,ご気力からは,3〜4月頃までは充分大丈夫と感じられたが,2月初旬になり急に著明になってきた腹水のため,遂にお気付きになつたようである。苦悩に満ちたお顔が数日続いた後,急に晴れやかな温顔を示され,時には冗談をいって見舞客を笑わしておられた頃は,すでに死に対するお覚悟は出来ていたようである。本当に立派なご最後であつた。
先生は明治36年8月30日新潟県漆山村の富豪の家にてご出生,昭和5年新潟医科大学をご卒業と共に母校の皮膚泌尿器科教室にご入局,故橋本喬名誉教授の下にご研讃,昭和24年10月,皮泌科教室が各々の講座に分離した時に皮膚科教室の主任教授となられた。その間,昭和12年から満2カ年欧州に留学された。
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