Japanese
English
総説
脳虚血の分子生物学
Molecular Biology of Cerebral Ischemia
野崎 和彦
1
,
西村 真樹
1
,
橋本 信夫
1
Kazuhiko NOZAKI
1
,
Masaki NISHIMURA
1
,
Nobuo HASHIMOTO
1
1京都大学大学院医学研究科脳神経外科
1Department of Neurosurgery, Kyoto University Graduate School of Medicine
キーワード:
cerebral ischemia
,
molecular biology
,
signal transduction
,
neurogenesis
Keyword:
cerebral ischemia
,
molecular biology
,
signal transduction
,
neurogenesis
pp.385-391
発行日 2001年5月10日
Published Date 2001/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436902034
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
I.はじめに
脳虚血は,脳内の血流の低下あるいは停止によって,神経細胞に対する酸素と糖分の供給が閉ざされ,細胞のエネルギー代謝が傷害された状態である.脳組織は他の組織と比べ,酸素と糖の消費が高く,またエネルギー生産のほとんどをその好気的分解によるATP生産によっており,虚血に対し非常に脆弱であるため,従来虚血における細胞死は壊死の代表的なものにあげられていた.しかし,砂ネズミの一過性前脳虚血モデルにおける海馬CA1領域のように,神経細胞の中に比較的ゆっくりとした経過をたどる死があることや,局所脳虚血においても,特にペナンブラと呼ばれる虚血周辺域ではアポトーシスが優位に起こっているとの報告から,脳虚血にも治療可能な領域が存在することが示唆され,その分子生物学的解析が盛んに行われるようになった.
脳虚血には,グルタミン酸カルシウム仮説をはじめとして,活性酸素,炎症など様々なメカニズムが存在し,脳虚血とはそれらが時間的空間的に相互に関わり合いながら進行する病態であると考えられている11)(Fig.1).本稿では,脳虚血における主要なメカニズムであると考えられるexcito-toxity,spreading depolarization,postischemic in-flammation,apoptosisについて概説し,それらをコントロールしている可能性のある細胞内シグナル伝達と,最近注目されてきた脳における幹細胞についても言及する.
Copyright © 2001, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.