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私が初めてパソコンと出会ったのは,1984年4月のことである.京都大学脳神経外科の約5000例の脳腫瘍患者の追跡調査のデータを管理するために,初めてNECのPC9801Eというパソコンを購入した.丁度オペレーティングシステムの主流がMSDOSになった頃である.最初に使用したデータベースソフトはdBASE IIであり,まもなくinformixに乗り換えた.データ入力には苦労したものの,それまでに集積したデータが信頼性の高いものであったので,データベースとして活用すれば,学会抄録などもアイデアさえ湧けば,瞬時に作成することができるようになった.「記憶」と「計算」の能力に関する限り,コンピュータは人間以上であることを身もって実感した.
まるっきりのその道の素人だったので,当然のことながら頻繁にトラブルが発生した.コンピュータに詳しい,理学部動物学教室で助手をしていたHさんにたまたま出会うことができた.陽気で親切な方で,何となく馬が合ってほとんど毎月1回くらいの割合で彼の研究室を訪ね,最新のテクニックについて親しく教えてもらった.私が電話でSOSを発すると,理学部からの約2キロの道を自分のバイクで出張サービスしてくれたこともあった.Hさんは専門が爬虫類の研究で,毎年夏休みには中国やボルネオへトカゲ狩りに出かけた.古びた木造の研究室の廊下には,フォルマリンに漬けられたトカゲの標本が所狭しと置かれていた.私が中国旅行から帰った時に,「中国の旅行案内書を貸しましょうか」というと,「いや,僕はトカゲ取りに行くので,観光には興味ありまん」と断わられたことが印象に残っている.Hさんのお蔭で,割合に早い時期から比較的抵抗感なくコンピュータに親しむことができたことをいつも感謝している.
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