扉
極地法と脳神経外科手術
片山 容一
1
1日本大学脳神経外科
pp.5-6
発行日 1996年1月10日
Published Date 1996/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436901138
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半年前のことである.私の勤務する大学の登山隊が世界最高峰チョモランマ(エベレスト)の北東稜からの初登攀に成功した.この登山隊にはNHKが同行しハイビジョンで美しいチョモランマや周辺のヒマラヤの山々を放映したので,ご覧になった方もおられるかもしれない.私ごとで恐縮だが,この登山隊の一翼を担ったのは私自身がかつて所属していた山岳部である.2年以上も前からその準備の様子を近くで見てきた私にとって,この成功はまさに小踊りしたいくらいの喜びであった.
脳神経外科の手術と登山には数多くの共通点があるように私には思える.南米のアンデスで高度6000mの氷壁を登攀中に,身につけていた大切な道具が外れて吸い込まれるように眼下の霧の中に落ちていってしまったことがある.そういうときに[しまった!]と思った瞬間のゾッとするような感覚を,脳神経外科の手術を始めてからも感じた.それにもまして,目的を達するための戦略をたてるプロセスがそっくりである.どうやってアプローチしたらいいのか,あの部分はどういう形状になっているのか,どうやって切り抜けるか,こういうことをあれやこれや考えることが本当によく似ている.どのようなルートでも一度誰かが登攀に成功すると,その後はルートの要所が細かく研究される.そのためにだんだんと登るのが容易になっていく.そういった成果は専門誌に報告される.そんなことさえよく似ている.
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