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川崎医科大学は,1970年に良医の養成を目指して開学したが,その間一貫してとられてきた卒前教育の特色として,(1)6年一貫教育,(2)学年制の採用,(3)視聴覚教育の重視,(4)統合講義カリキュラムの採用,(5)臨床実習の重視が挙げられる.中でも4年次に行われる器官別の統合講義と4年次3学期から6年次1学期までに行われる各診療科ローテーションが特徴的なものといえる.前者においては,われわれ脳神経外科教員は「神経」,「損傷・感染」,「画像診断」などの各ブロック講義に関与する.「神経」ブロック講義がその中心であるが,ここには基礎医学を含め8部門から13名の教員が参画している.これらの統合講義にはブロック主任と称するコーディネーターによる調整の良否がその成果を大きく左右することになる.各担当教員に分担してもらいたい項目をあらかじめ意見調整した上で,その講義範囲とレベルについて要請する.毎年これを繰り返して微調整をつづけているが,本年度は学長,副学長を交えての「神経」ブロック教員の話し合いも持たれ,大学全体としての教育的見地からのコントロールを受ける配慮がなされている.「脳神経外科」と称する講義時間はなく,あるのは5年次に行われる臨床実習のみである.5年生全体が18グループに分けられ,2週間ずつローテートしてくる.カリキュラムはそれぞれの部門の裁量に任されている.
この背景には,以下のような面が見逃せない.基礎医学が爆発的に進歩したために,その基礎医学の先端的な知識を平均的な医師が吸収することは至難の技であり,余程の努力が必要である.臨床医学にも同じことが言える.そしてその情報量もその急速な進歩と共に増えている.今は最も新しい知識とされることも,数年後には古いものとなるであろうから,この現象は今後とも一層激しいものになると思われる.当然のことながら,このような医学・医療の情報量の激増は医学教育にも影響が及ぶ.教えることが益々厖大なものとなり医学生は四昔八苦しているにちがいない.学生に無理やり詰め込んでも憶えているのはその時だけで,試験が終われば全て吐き出してしまうであろう.樹木が秋になると一斉にその葉を落とすように.しかし,一番大切なのは,樹木の根,幹,太い枝なのである.それらを育てることが大切なのである.各専門領域のあまり細かな知識を教えるのではなく,全ての学生が習得すべき基本的な事項を精選して教え,先端的,高度な内容については学生の理解力を考えて取り上げるという配慮が必要であろう.多すぎる情報量を減らし負担を少なくするよう講義時間を減らすことも一法である.受け身に学ぶことよりも,問題を深くとらえ探求心を持って追求する態度を養成するために,実習時間を増やすことのほうが数倍も有効であろう.
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