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本年9月に開催された上海国際脳神経外科学会での講演を依頼されていたので,私は上海訪問を楽しみにしていた.ところが,急に尖閣諸島の領有権に関する両国間の争いが発生し,中国国内では過激な反日運動が起こり,日本製品のボイコット,日本企業の工場の破壊などが次々に発生する事態となった.私は中国訪問について,せっかく温かい招待を受けていたので,訪問すべきか,断るか迷った末に,「中国の脳神経外科医の友情は十分に理解しているが,私が中国を訪問することによって,私を招待してくださった方々に,いささかでも不愉快な思いをさせては申し訳ないと考え,訪中を中止せざるを得ない」とメールを送った.このメールには直ちに返信が来て,「あなたの決断はよく理解できる,このような国家間の争いが1日も早く解決し,今日まで続いてきた両国の友好関係の流れが戻ることを願っている.落ち着いたら中国を訪問してください」と記されていた.このような国際的な危機に直面しても,お互いに永年付き合っている脳神経外科医の間には,いささかの変化もないことが直ちに伝わってきて,ほっとしたところであった.
考えてみれば,このような時期の国際外交には,政府として相手国の主張にも耳を傾けて,お互いに理解し合った国際友好関係を維持するような心掛けと,永い目で国の将来を真摯に考えて行動をとる外交手腕が問われるところである.実情は,自分が正しいと述べるだけで,いささかの解決策も示さない今日の政治には,ただただ失望するばかりである.私ども,年とった世代は世界大戦の惨めさを身に沁みて知り尽くし,二度と戦争があってはならないと考えているのであるが,現在の政府は,そのような危機感は持ち合わせていないように思われる.領土問題は戦争の引き金になる可能性が高いが,それとともに両国の経済・社会・文化の交流の断絶に直結する問題であり,1日も早く平和に解決することを期待している.私ども脳神経外科医の数は,人口のごく一部を占めるに過ぎないが,良識があり,このような草の根の集団が国際間で次々に築かれていくことが,将来の平和と繁栄につながることであろう.
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