扉
臨床研究とBasic Scienceの調和
榊 三郎
1
1愛媛大学脳神経外科
pp.833-834
発行日 1992年8月10日
Published Date 1992/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436900501
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21世紀は神経科学の時代といわれている.私共,脳神経の疾患を対象に研究しているものにとっては,おおいに期待に胸がふくらむ思いがする.従来,神経科学の研究には神経解剖学,神経化学,神経生理学,神経薬理学など,比較的明確な手法が用いられ,その背景に脳脊髄,末梢神経などの臓器そのものを垣間みることができ,臨床家にとって解りやすく,説得力があったように思える.
ここ,十数年間の分子遺伝学,分子生物学の輝かしい進歩により,神経科学における研究も方法論的にも,また,その方向性も様変わりしてきたように感ずる.神経単位における微量の蛋白質が同定でき,また,遺伝子そのものを単離し,遺伝子DNAの塩基配列を決定するところまでになってきた.それをもとに,異なる細胞集団から成りながら,多岐にわたる脳の機能を解明しようという試みがなされてきている.つまり,比較的具現化した病態ないし病変を解析し,理解した上で,それに合った治療法を導き出すという臨床研究に対して,その病態が起こって来る由来を解明し,分子レベルにおいて隠された本質に迫ろうとするbasic scienceが急速に進歩してきたわけである.来世紀に向けての神経科学の進歩を大いに期待したいところであるが,現在,果たして,この両者がうまく調和しているだろうか.
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