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Ⅰ.はじめに
2018年4月に臨床研究法が施行され,わが国における臨床研究をめぐる環境が大きく変化している.臨床研究法成立のきっかけの1つであるいわゆる「ディオバン事件」では,その問題の中心に利益相反管理があったため,臨床研究法下の研究では利益相反管理に新たな枠組みが作られた.その結果,臨床研究に携わる医師はすべからく利益相反に関する知識をupdateする必要に迫られている.
産学連携による医学系研究は,新規診断法や治療法,予防法の開発ならびに実用化に大きく貢献してきた.しかし,大学などの研究組織や研究者個人と営利企業との連携の機会が増えるほど,教育・研究という学術機関としての社会的責任と,産学連携活動に伴い生じる金銭・地位・利権などの利益が衝突・相反する状態が不可避的に発生する.こうした状態が利益相反(conflict of interest:COI)と呼ばれ,被験者保護の観点や研究の信頼性の観点から,ときに社会問題化している1,11).ディオバン事件が大々的に報道されたことや,テレビドラマで臨床研究に絡む汚職や不正が臨場感をもって放映される(「下町ロケット(TBS系列,2015年)」,「ブラックペアン(TBS系列,2018年)」)など,一般市民が臨床研究に対してもつ疑念は相当レベルに達していることに,われわれ研究者は危機感を抱いたほうがよい.
一方で,上述のように利益相反は産学連携活動に伴い不可避的に発生するものであり,利益相反状態にあること自体は何ら咎められることではない.利益相反がないことは研究者の倫理性が高いことを意味しないし,利益相反が多いことはむしろ研究者の能力の高さを示す指標であるとさえ言える.したがって,利益相反に関する透明性を確保することで社会における疑念を晴らし,また被験者保護や研究の信頼性を高める観点から利益相反を適切に管理することこそが求められていると言えよう.
臨床研究の倫理的原則であるヘルシンキ宣言(改訂版2013年)17)において,第22条では「(研究)計画書は,資金提供,スポンサー,研究組織との関わり,起こり得る利益相反(中略)の条項に関する情報を含むべきである」とし,第26条では「被験者候補は,目的,方法,資金源,起こり得る利益相反,研究者の施設内での所属(中略)について十分に説明されなければならない.被験者候補は,いつでも不利益を受けることなしに研究参加を拒否する権利または参加の同意を撤回する権利があることを知らされなければならない」とされている.これらの条文では,研究の倫理審査と被験者のインフォームド・コンセントにおいて,利益相反に関する情報公開が欠くべからざるものであることが示されている.また,第36条では,「資金源,組織との関わりおよび利益相反が,刊行物の中には明示されなければならない.この宣言の原則に反する研究報告は,刊行のために受理されるべきではない」とされ,成果報告時に利益相反に関する情報公開を行うことが,研究者のみならず学会や出版社などの発信元にも求められている.
本稿では,まず被験者保護の観点からゲルシンガー事件を振り返り,また研究の信頼性の観点からディオバン事件を振り返ることとする.最後に,それらの観点から,臨床研究法下で求められている利益相反管理のあり方について議論する.
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