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利益相反(conflicts of interest:COI)は,医学分野のみならず,金融・証券,会社,弁護士,公務員などさまざまな分野で用いられている用語である.COIが古くから用いられた分野として英米の信託法がある.信託法におけるCOIの定義は,「ある者が自分以外の者の権利を擁護すべき地位にもかかわらず,その責務と対立または抵触しうるような利害関係を有する状況にあること」である.たとえば,遺産相続人が幼少の場合に,信託者が資産を管理するが,同時に自分の利益を相続人の利益に優先させてはならない.このようにCOIは財産や生命などを信託する際に重要な位置を占めてきた.その後,COIは信託法を超えた幅の広い概念になっている.COIの医学系研究における重要性を産学連携研究の歴史から紐解いてみる.
1970年代に,米国連邦政府の資金を用いた科学研究の成果は公共の知的財産とされ,誰でもが使用可能であり,米国は商品製造を活かす面において日本や欧州に遅れをとっていた.業を煮やした米国連邦政府は,公的資金による研究成果を研究機関・個人の知的財産にできるBayh-Dole Act(バイドール法)を1980年に制定した.その結果,大学における特許取得件数,TLO(Technology Licensing Organization;技術移転機関),ライセンス収入・件数,民間による大学への資金提供額が大幅に増加した.バイオテクノロジー分野のCohen-Boyer特許(スタンフォード大学,1980年)は,バクテリアを利用した遺伝子組み替え技術の特許であり,約2億5000万ドルのライセンス料をもたらしている.世界に冠たる情報伝達系のYahooやGoogleもスタンフォード大学の大学院生による起業であった.わが国でも1998年に「大学等技術移転措置法」,1999年に「産業活力再生特別措置法」(日本版バイドール条項)が制定され,産学連携研究が盛んになった.
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