Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
Ⅰ.はじめに
脳動脈瘤破裂の結果としてのくも膜下出血は,その重篤さ故にもたらされる社会的損失が大きく,脳動脈瘤破裂を予防するためには,適切なリスク評価に基づく層別化と有効な治療介入が求められる.脳動脈瘤は,有病率が人口の数%と比較的高いことと,画像診断機器の精度の向上や普及,脳ドックの浸透などの医療状況により,近年,未破裂の状態で発見されることが増えている.すなわち,くも膜下出血を予防するための先制医療16)としての治療介入機会が存在する.これら未破裂脳動脈瘤に対しては,大きさや部位,個々の症例の背景因子などから,破裂リスクが一定以上高く,治療リスクが破裂リスクと比較して低いと推測される症例に対して外科治療介入が行われている.しかし,経過観察中に破裂により不幸な転帰を辿る症例や,外科治療により後遺症を来す症例,術中所見で壁が厚くとても破裂しそうにないことが判明する症例など,満足できる治療成果を達成できない場合も経験する.そのため,くも膜下出血の重篤さも考え合わせると,より適切な治療適応判断と治療介入が求められる.一方で,脳動脈瘤に対する薬物治療法が開発されていないことや,破裂危険性の高いいわゆる“危ない”瘤を術前に検出する質的な診断法が存在しないことなど,脳動脈瘤に対して現在の治療が十分に対応できているとは言い難く,その意味で脳動脈瘤はいまだunmet medical needsを有する疾患である.
より適切に未破裂脳動脈瘤を治療し,くも膜下出血を減らすことは,脳神経外科医としての社会的責務であり,そのためには新たな診断法や治療法の開発が必要である.このような新規の診断法,治療法開発のためには,脳動脈瘤がどのように発生し,増大し,そして破裂するのかを十分に理解することが必須である.全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)などの自己免疫性血管炎症例での脳動脈瘤発症率の上昇や,極端な例としては細菌性動脈瘤での急速な瘤の形成・進展などにより,脳動脈瘤が炎症と関連した疾患であることが推測される.実際に,近年のさまざまな検討から,炎症反応が脳動脈瘤の病態を制御・修飾していることが示唆され,脳動脈瘤が炎症反応に制御されるいわゆる炎症性疾患であるという概念が確立しつつある.また,炎症を標的として,新規の薬物治療法や診断法の開発も進みつつある.
本稿では,上記のような現状を踏まえ,ヒト脳動脈瘤手術摘出標本を使用した病理組織学的解析,モデル動物を使用した検討,数値流体解析,遺伝学的解析,臨床研究など多面的な解析による現在までの知見を紹介しつつ,「炎症」という切り口で脳動脈瘤の病態に迫る.
Copyright © 2018, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.