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Ⅰ.はじめに
転移性脳腫瘍(metastatic brain tumors, brain metastasis[以下,BM])の予防と治療は,今日のがん患者における重要な臨床課題である.BMは成人のがん患者の10〜20%に発生するとされ,原発性脳腫瘍の10倍の頻度とされている31).最も頻度が高い原発がんは,肺がん,乳がん,さらに欧米では悪性黒色腫が挙げられるが,あらゆる悪性腫瘍が脳に転移する17).BM患者が臨床現場で増加し,臨床課題として注目されている理由は,①空間分解能が高い画像検査,特に脳magnetic resonance(MR)が一般化したこと,②続々と臨床応用される新規薬剤によってがん患者の生存期間が延長したこと,③BMの治療方法が増え,治療後の長期生存者が認知されるようになったことなどによる.
BMの診療は,ダイナミックに進歩しつつある臨床腫瘍学と集学的治療をリアルタイムで学ぶ機会を与えてくれる.象徴的な事例として,がんに対して新しい分子標的薬が全身的には治療効果を示している場合でも,最初の再発が脳に出現すること(isolated central nervous system[CNS]failure)が増えている59,72).また,がんの治療後,長い寛解期間を経て発症したBM患者に遭遇することがある.この遅発性再発の機序として,がん細胞が転移先の組織に潜伏し増殖休止の状態を保つ状態,すなわちがん休眠(cancer dormancy)が注目され,がん転移の生物学的機序や臨床的リスクに関して研究が進んでいる80).
日本脳腫瘍学会ガイドライン委員会が2013年7月までの文献をもとに編纂した「成人転移性脳腫瘍ガイドライン」が完成している(『脳腫瘍診療ガイドライン1 2016年版』[金原出版]収載).本稿では,これ以降の資料を中心に,脳神経外科医の視点からBM診療における変革の方向を探る.
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