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Ⅰ.はじめに
結節性硬化症(tuberous sclerosis complex:TSC)は,TSC1またはTSC2遺伝子の欠損を原因とする神経皮膚症候群の1つである.TSC1およびTSC2遺伝子にそれぞれコードされるhamartinとtuberinは複合体を形成し,Ras homolog enriched in brain(Rheb)のGTPase activating protein(GAP)として作用し,Rhebを不活性化することで,下流に位置するmammalian target of rapamycin(mTOR)を抑制し,細胞増殖を制御している6).そして,その機構の崩壊がTSCにおける腫瘍性増殖のメカニズムと考えられる.また,mTORが活性化されると神経細胞は興奮性を示すことも知られており,それがTSCに伴うてんかんや精神症状出現のメカニズムの1つであると推定されている.
TSCは,顔面血管線維腫,難治性てんかん,精神発達遅滞が古典的三徴とされるが,これら以外に上衣下巨細胞性星細胞腫(subependymal giant cell astrocytoma:SEGA)による水頭症,腎血管筋脂肪腫(angiomyolipoma:AML)による腹部膨満や腫瘍からの出血,心横紋筋腫,白斑やshagreen patchに代表される皮膚病変,肺リンパ脈管筋腫症による呼吸不全などが,さまざまな組み合わせで,かつ異なる時期に発症してくる.これらの多様な表現形は,遺伝子型の違いによるものと考えられているが,体細胞変異も報告されており,遺伝子変化と症状・症候との関連は依然研究段階にある.
TSCに伴う神経系の症状・症候で問題になるのは,てんかん,発達遅滞,行動異常,自閉症のほかにSEGAに伴う水頭症などである4,6).これらの症状・症候は難治性に経過することが多く,適確な治療法の確立が求められてきた.このような中,TSCに伴う種々の病態に対するmTOR阻害薬の治療効果が明らかとなり,本疾患の治療は新たな局面を迎えたといえる.本稿では,TSCの治療全般について解説するとともに,その中での脳神経外科治療の位置づけと,今後の方向性について述べる.
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