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Ⅰ.はじめに
紡錘状動脈瘤や囊状巨大動脈瘤に対して,脳血管内治療が果たす役割は限られてきた2,6).親動脈の変性や損傷が円周方向の広範囲に及ぶそれらの動脈瘤を瘤内塞栓だけで根治させることは理論的に不可能であり,動脈瘤とともに親動脈を閉塞する治療戦略を選択しなければならなかった2,6,16).近年,従来の瘤内塞栓術を中心とした治療法に加え,表面被覆率が高く柔軟なflow diversion stent(Fig.1)と呼ばれる新しいデバイスを用いた脳動脈瘤治療が選択肢の1つとなった1,2,8,10,11,13).Flow diversion stentを用いることで,たとえ親動脈の変性が全周性および広範囲にわたっている症例であっても,動脈瘤の完全閉塞と同時に親動脈の再建が可能となる1,10).Flow diversion stent留置による治療機序には2つの柱がある.1つはステントメッシュによる血流阻害効果で瘤内血流をうっ滞させ血栓化を惹起すること,もう1つは緻密なステントメッシュが新生内膜の骨組みとなり,大きく欠損した親動脈壁が修復されやすくなることである.
一般的に脳動脈瘤の発生には内弾性板の破断や消失,中膜の変性菲薄化などの現象を伴う.適切に留置されたflow diversion stentが新生内膜により被われ血管壁内に埋没すると,変性した親動脈を強固に補強する人工内弾性板のような組織像を見ることができる7).理論的には紡錘状動脈瘤や囊状巨大動脈瘤に対して最適な治療法と言える(Fig.2).
当初は動脈瘤の直径10mm以上の傍前床突起部と海綿静脈洞部の未破裂内頚動脈瘤のみがflow diversion stent治療適応であったが,その臨床成績の高さから治療の適応範囲が拡大しつつある4).筆者の施設経験および過去の報告を見る限り,flow diversion stentを用いて脳動脈瘤が完全に消失した症例において同一部位に動脈瘤が再発することはなく,その根治性は極めて高い.しかし,比較的高い頻度で起こる重篤な有害事象や,flow diversion stent留置後に起こる動脈瘤破裂など,さらなる病態理解が必要な治療法とも言える8).
2015年,日本でもflow diversion stentの代名詞となっているPipelineTM Embolizaiton Device(Medtronic, US.以下,パイプライン)が薬事承認された.日本に導入される予定のパイプラインは第三世代のPipelineTM Flexであり,2015年8月現在,米国内でも一部の施設で限定導入されている最新のデバイスである.自験例および米国内のパイプラインプロクター医としての経験をもとにした印象では,前世代のパイプラインに比較して留置性能が格段に向上し,治療の安全性も高まっている.しかし,ステントの留置という単なる技術的な側面だけではなく,症例選択や他の治療との組み合わせ,抗血小板薬の使用方法なども含めた包括的な治療戦略を立てられるか否かでこの治療の成否が決まる.本稿では重要な欧米の臨床試験と当院のパイプラインによる治療成績を中心に解説し,その利点と欠点の両方を明確にする.
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