扉
Exactな学としての医学
永井 政勝
1
1獨協医科大学・脳神経外科
pp.449-450
発行日 1983年5月10日
Published Date 1983/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436201665
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森鷗外が若き日を回想して書いた小説「妄想」の中の,ドイツにおける研究生活にふれた部分で,「自然科学のうちで最も自然科学らしい医学をしていて,exactな学問ということを性命にしている」というくだりがある.何年か前この文に初めて遭遇した時,私は奇異な感じを持った.正直のところそれまで私は,自然科学の中で最も自然科学らしい分野は物理学や化学だと思っていたのである.敗戦後まもない昭和24年に湯川博士がノーベル物理学賞を授与された頃は,日本の科学の明るい未来に胸踊らすと同時に,物理学こそが科学の華の如くに思われたのであった.そして大学に進むと,物理学,化学こそまさにexactな学であるという思いを深めた.事実,当時は,理学部関係の論文こそが自然科学の真の論文であり,医学の分野の論文は数こそ多いがすべてBクラスのものばかりであるという意見を随分聞かされた.このためその後,生物学,医学の方向へ進んでからもずっとinferiority complexを持ち続けていたし,また少なくとも医学の自然科学的な面において,少しでも物理学的な精確さに近い研究を行いたいとも考えていた.しかし鷗外のこの文章は,医学,とくに臨床医学というものを改めて考え直すきっかけを私に与えた.
そもそも鷗外の4年間のドイツ留学中,最後の1年(1887年)は,ベルリン大学細菌学教室,コッホ教授のもとで研究した1年である.
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