扉
お茶の精神
桑原 武夫
1
1横浜市立大学脳神経外科
pp.529-530
発行日 1975年7月10日
Published Date 1975/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436200321
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「手術というのは,お茶のようでなくては……,お茶の精神が大切なのだよ」と,筆者は教室の若い人々と雑談している折に煙に巻くことがある.大抵は,キョトンとした顔がもどってくる.そこで以下に述べるような説明を始めることになる.
「お茶といっても,そこらで呑むお茶のことではないんだ.裏千家とか表千家とか言っているお茶の作法,御点前のことを言っているのだ.あのお点前の一連の動作は,何も知らないでぼんやり眺めていればなんとまどろっこしい無駄なことのように見えるかも知れない.しかし,よくよく観察すれば,一連の動作はきわめて順序よく組立てられており,一つ一つの動作の終止と次の動作への準備がうまく結びついており,お点前は個々の手順についても,全体としても,スムーズな水の流れのように進行するものだということがわかる.能率的であり無駄な動作はない.手術というのは,このお点前のように,スムーズな流れであってよどみがあったり無駄があってはならない.手術の各ステップを慎重・確実に進める,止血はその都度丹念に行ない,常に手術野をclearに保ち,orientationをはっきりさせておく.
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