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20世紀には,アジア諸国というと「途上国」の代名詞のようなレッテルが貼られており,西洋諸国にもっぱら目を向けていた日本は,同じアジアの国でありながらこれらの遅れている国々にあまり興味を示さなかったと言っても過言ではないでしょう.われわれ脳神経外科医も例外ではありませんでした.しかし,ミレニアムを境にしてアジアは大きな変動を遂げているという現実を早く察知しなければ,日本はアジアからも浮いた存在になりかねません.
30年前にはずっと遅れをとっていた韓国,台湾は今では日本と同等かそれ以上の生活レベルを築きました.韓国では大統領が医療を輸出産業として育てたために,医療は今や消費産業どころかその技術を利用して外国人を治療し外貨を稼いでいるのです.中国は20世紀の終わる直前までマイクロ手術もままならない国でしたが,21世紀に入って驚異的な進歩を遂げ,日本の政治経済を脅かしているのはご存知の通りです.北京,上海は一歩空港を降りるとロサンゼルスと見間違うほどの変貌を遂げていますが,日本の高度成長期と同じく,公害がひどく人間や社会の落ち着きはありません.ほとんどの大病院ではMRIを導入し,今ではマイクロ,内視鏡手術が当たり前になって来ています.しかし,医療のハードがよくなってもソフト面ではもう一歩という所でしょう.インドでは多くの貧民を抱えていますので医療の国内格差が大きく,治療のできない貧しい患者が多い一方で,富裕層の病院では医療技術が着実に向上し,日本の病院のほうがむしろ貧しく見えるほど立派な設備をもっています.インドは英語圏でもあり日本より早くIT化を進めてきたおかげで,西洋諸国と時差がある点を生かして米国の夜のIT需要を賄っていると言われています.米国でインド系の脳神経外科の教授が数多く誕生しているのを見ると,国境を越えた彼らのバイタリティーと強い結束力を感じます.東南アジア諸国は国によってまだ大きな差がありますが,シンガポール,香港などは東京以上に洗練された都会であり,優れた医療制度を築いています.一方,タイ,ベトナム,インドネシア,ネパールでの医療は日本と比べ30~40年の遅れがあり,未だ日本の技術援助が必要ですが,タイやマレーシアでは最近優れた外国の医師と先端医療設備を備えた「国際病院」を建設し,高い医療レベルの見本を提供し国内の医療技術の向上に役立っているだけでなく,自国より安い費用で高い技術の医療を求める患者が先進国から集まっています.中国でも数多くの国際病院が計画されていると聞きます.一方,カンボジア,ミャンマーでは長年の内戦の歴史のためインフラが未整備なので,現在はむしろ一般医療を必要とし,脳神経外科の分野が発展するにはほど遠い状況です.カンボジアでは国民の平均年齢がなんと30歳代なのです.それは30年前にポルポト政権によって数多くの成人が,そしてほとんどの医師,教師などの知識人が殺害されてしまったためです.そのために医療を教える人材がいないので,脳神経外科医を目指す若者は海外で学んでいるのが現状です.
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