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Ⅰ.はじめに
迷走神経刺激療法(vagus nerve stimulation:VNS)は,難治性てんかんに対する低侵襲な緩和的治療である.開頭による根治的手術の適応とならない患者,すなわち難治性の全般てんかんや,両側多焦点を有する局在関連てんかんなどが適応となる.また,開頭手術後に遺残した薬剤抵抗性発作にも有効である.欧州では1994年に,米国では1997年に承認され,既に確立された治療として広く行われているが,日本では長らく未承認の状態が続いてきた.しかし,本年になって,厚生労働省の「医療ニーズの高い医療機器等の早期導入に関する検討会」は,日本てんかん外科学会(2007年,森岡隆人会長)が申請した迷走神経刺激装置を対象品目として選定した.現在,承認へ向けた検討作業が急速に進められており,先進国中唯一VNSを施行できなかったわが国の状況が一気に転換する可能性が高くなってきた.
迷走神経刺激装置の埋込を受けた患者は海外諸国で4万人を超え,米国での年間新規埋込数は約5千件と言われている.米国では,てんかん外科医に限らず,頸動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA)の経験がある脳神経外科医であれば,ルーチンにこなす手術の1つになっているという(私信:虎の門病院,中冨浩文医師).実際,刺激装置埋込の手術手技は,脳神経外科手術手技としては比較的容易なものであり,承認後の日本にも同じような状況が訪れるかもしれない.しかし,手術の対象となる迷走神経の特性上,不適切な手術手技は生命の危険を含めた重篤な合併症につながる危険性を秘めている.手術解剖の十分な理解と安全確実な手技の習得が要求されるところであり,特に不整脈については,迷走神経心臟枝の解剖や電極装着の高さなどについて十分な理解が必要である.
本稿ではそのような点を踏まえて,VNSに用いる刺激装置埋込術について解説する.VNSの有効性や合併症の詳細な解説や,抗てんかん作用の発現機構については他の総説などを参照されたい5,16,17).
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