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神経心理学に関心を持つ人間にとっては,願ってもない書物が翻訳出版された.神経心理学は,脳損傷と心理障害,あるいは脳機能と心理現象の相関を追及しているが,問題が問題だけに,初心者にぴったりの,手元で使える参考書というのがなかなかない.記述が心理的側面だけに集中しているのも困るが,機能的側面だけに集中しているのもやっぱり困る.本書はこのバランスが絶妙である.神経解剖学も,神経生理学も,神経学(神経内科・脳外科・精神科を含めて)も,実験心理学も,認知心理学も,リハビリテーション諸科学も,とにかく神経心理学に重なる項目はすべて本書に収められている.この程度のサイズ(711ページ)にしては,その手落ちのなさは憎らしいほどである.
本書の魅力は編集方針にある.詳細な説明が必要な項目には十分な紙面が割り当てられ,簡単な説明で事が足りる項目は数行で済まされている.このめりはりがすばらしい.例えばAの項目を例にとると,重点項目に選ばれているのはacalculia失計算,aging加齢,agnosia失認,agraphia失書,alcoholismアルコール中毒症,alexia失読,amnesic syndrome健忘症候群,amusia失音楽,anomia失名辞,anosmia嗅覚消失,anosognosia病態失認,aphasia失語,apraxia失行,assessment評価,ataxia運動失調,attention注意,auditory perceptual disorders聴知覚障害,autism自閉症,autotopagnosia自己身体部位失認の19項目で,これらについては総説に近い詳細な解説がなされている.嗅覚消失,評価,注意,それにアルコール中毒が同じ重要性を持つものとして,失認などと肩を並べている点が極めてユニークで,確かにこれぞ神経心理学である.
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