書評
『頭頂葉』―酒田英夫著 山鳥 重,彦坂興秀,河村 満,田邉敬貴●シリーズ編集 〈神経心理学コレクション〉
入來 篤史
1,2,3
1理研脳センター
2東京医科歯科大学
3ロンドン大学
pp.579
発行日 2007年6月10日
Published Date 2007/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436100568
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酒田英夫先生の研究の足跡は,世界の頭頂葉の研究の歴史そのものである.そして,その集大成を象徴するのが,本書最終章に掲げられた,セザンヌの『サン・ヴィクトワール山』に見る線遠近法の妙技であり,フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』に込められた陰影の魔術なのである.つまり,「頭頂葉を通してみた世界の風景」はかくあり,ということなのだと思う.どのようにしてこの境地に辿りつかれたのか,その歩みの一歩一歩に込められた想いを,希望を,信念を,本書の聞き手の山鳥重,河村満,田邊敬貴の3先生が巧みな質問で聞き出してゆき,酒田先生ははるか遠くに視線を投げながら,そのときどきの世界の研究現場の人間模様を回想しつつ物語ってゆく.
ここには酒田英夫先生の,自然に対する畏敬の念が満ちている.真の研究者かくあるべし,という真摯な態度である.そんな中で,私の心に残ることばがある.本書にも出てくる『ニューロンに聞く』という,脳に対する謙虚な研究姿勢である.まずは仮説を立てて,神経活動を検証するための手段として用い,精密に定式化されたモデルを構築してゆく,という現在一般的になった神経生理学の手法とは,明確に一線を画するこの態度は,いまや「酒田学派」のスローガンといってもよいだろう.
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