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2003年5月,個人情報保護法が国会を通過したことを受けて,2年以内に関係法案を整備し施行されることになる.医療機関においては患者の診療情報を扱っているので格別の注意が必要である.しかしながら,筆者の知り得る限りでは,未だ多くの医療関係施設での取り組みは十分でないようである.診療情報は極めて重要なデータの集積であり,その漏洩は大きな問題を引き起こす可能性を持っている.商業分野への流用では,流行の健康食品の販売広告,医療機器,リハビリテーション機器の販売,宣伝,生命保険の勧誘,その他の目的で,いつでも流用の的とされる価値の高い情報である.そのため,悪用されれば大きな社会的不安と損害をもたらすことになる.
先日,筆者の勤務する病院で次のような事案が生じた.つまり退職した医師が,開業するに当たって,自分の診ていた患者に対して退職と開業のお知らせの手紙を出した.ことはもう少し複雑だが,問題をわかりやすくするためにこうしておく.すなわち,患者のリストを診療情報から流用したものである.このことに対して,手紙を受け取った患者から病院宛に苦情の手紙をいただいたわけである.手紙の主旨は,個人情報管理が杜撰ではないか.このような病院では安心して診療が受けられないので,早急に改善すべしとの内容であった.まさに個人情報の漏洩問題である.常日頃から,国家公務員の守秘義務については口を酸っぱくして教育もし,派遣職員に対しては,もちろん情報への接触の制限を掛け,宣誓書まで提出させて指導してきているにもかかわらず,このようなことが起こってしまった.これは今日の常識と,医師(医療従事者)の持つ従来からの常識と著しい乖離がみられる事例である.もちろん,多くの人は昔の常識で扱っていると思われるが,この苦情は正論である.医師サイドからすれば,今回,退職して開業することになったので,「お困りの時はご利用ください」くらいの気持ちで手紙を出したのであろうが(多分,気持ちのどこかに,新しく開業するに当たっての宣伝の意味もあったに違いない),20年前であればよくこのような挨拶状を手にしたもので,まず,問題にはならなかったと考えられる.むしろ「親切にお知らせをいただきありがとう」と感謝されることはあったかもしれない.急速に時代は変わっているのである.この例は,今回の法令では診療録の目的使用外に当たる不正使用である.
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