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I.はじめに
中枢神経系にとって最もむずかしい仕事のひとつは,絶えず生体にふりそそぐ感覚情報をふるいにかけることである。われわれは細かいことがいっぱいある世界に住んでおり,行動するためのデータとしてそのほんの一部分だけしか使うことができない。視覚,聴覚,嗅覚,触覚が入り混じった情報の大部分を無視して,自分自身の生活に重要な物にのみ反応する。注意とは脳が環境のある一面に集中するために,外来の感覚情報をふるいにかける選択の過程である。19世紀にWilliam Jamesはこう書いている。「注意がどういうものか誰でも知っている。それは同時に存在する可能性があるいくつかの対象,または,一連の思考のうちのひとつが明瞭で生き生きとした形で心を占めることである。意識の焦点を合わせ集中することがその本質である。それはあることを効果的に処理するために,他のいくつかのことから手を引くことを意味する。」一世紀たった後もJamesの概念は注意の生理学的分析の出発点として依然として使われている。つまり,それは神経系がほかの刺激を犠牲にしてある刺激を取り扱う過程である。
このように,注意とは,さらによく調べたり行動を起こしたりするために脳が環境から刺激を選択する課程である。頭頂葉(Critchley,1953)と前頭葉(Heilmanand Valenstein,1972)の損傷は感覚無視を起こすことがある。これは,視野のある部分や,聴力空間のある部分,あるいは,体表面のある部分への刺激に反応できない症状である。この感覚無視は感覚の障害によるものではなく,注意深くテストすると患者は正常な感覚の閾値を示す。むしろそれは注意の問題なのである。つまり,患者は環境の中から,反応するための刺激を選びだせないのである。たとえば,単純な環境では視野全体にわたって反応できる患者も,刺激を同時に左右の視野に出された場合には損傷された側と反対側の刺激を無視することがある(Critchley,1953)。
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