Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
まえがき
今日,kuru(Gajdusek,1966)およびCreutzfeldt-Jakob(C-J)(Gibbsら,1968)病の動物移植成功により,transmissible dementiaの概念が脚光を浴びている。ここでいうtransmissionとは,いわゆるslow infection(Sigurdsson,1954)のそれであり,従来の病理学では感染症というよりむしろ退行変性疾患と考えられていた病気が,意外にも感染であった,という新鮮な驚きを伴なっている。Sigurdssonはslow infectionの規準として永い潜伏期間と進行性の臨床経過を重視しているが,これはまさに中枢神経の原因不明の退行変性疾患の特徴そのものである。
歴史的に見ると,進行麻痺という痴呆疾患が感染であると同時に変性でもあった。19世紀の終りに,精神病患者の中に,進行性痴呆の末に麻痺に陥って死亡する一群が区別され,しかもこれと梅毒の関係が疑われた。しかし,近代病理学が導入されて見出された脳の剖見所見では,細胞浸潤など多少の感染性要素も存在したが,主な病変は神経細胞の変性だったのである。そのためこの病気は変型梅毒と呼ばれて,一般の梅毒感染とはいちおう区別されていた。すなわち梅毒スピロヘータの直接侵襲は疑問視されていたのである。
Since Gajdusek et al. (1966) and Gibbs et al. (1968) succeeded in transmitting kuru and Creutzfeldt-Jakob disease (CJD) to animals, transmissible dementia caused by the slow infection(Sigurdsson, 1954) has become the object of public attention. The implication of the concept of the slow infection is that some degenerative diseases of the CNS are actually of infectious etiology.
Copyright © 1981, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.