特集 神経学における最近の研究
<臨床>
本邦における肝脳疾患の研究
猪瀬 正
1
1国立武蔵療養所
pp.862-863
発行日 1978年7月10日
Published Date 1978/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1431904964
- 有料閲覧
- 文献概要
肝脳疾患という術語の意味するところは,肝と脳が共に病むというほどのことである。そのような範疇に入る疾患としては,古くからWilson病—進行性肝レンズ核変性症(WILSON,S. A. K. 1912)が知られていた。ところが,組織病理学的所見がWilson病に似ていながら,臨床的にはかなり異なる症例が,「Wilsonに近い症例」,"Wilsonismus"などと称されて,報告されるようになった。私が,1950年の精神神経学雑誌に,「肝脳変性疾患の特殊型」と題する論文を発表したことが契機となって,「肝脳疾患」という呼称が次第に一般的となった。上記論文に記してあるように,私の発表以前にわが国では,林〔林 暲:仮性硬化症ノ病理ニ就キテ。神経誌,31:251(1930)〕,渡辺—奥田ら〔渡辺道雄,奥田三郎:仮性硬化ニ類似ノ脳変化ヲ示セル退行期脳疾患ノ一例。精神経誌,42:252(1938)〕の報告があったのである。私は,1950年に発表した論文の中で,問題の肝脳変性疾患が,臨床的にWilson病と異なることを指摘するとともに,脳の組織病理学的所見と肝の病変からも,Wilson病ではない,肝と脳が共に侵される特殊な疾患群であることを主張した。
Copyright © 1978, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.