特集 神経学における最近の研究
<生理>
小脳と運動制御
伊藤 正男
1
1東京大学医学部生理学教室
pp.675-676
発行日 1978年7月10日
Published Date 1978/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1431904889
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小脳研究の発展は大きくいって2つの段階に分けることができる。第一の古典的段階では動物の小脳を切除したり,電気刺激することによって,また小脳疾患の臨床病理学的な観察を積み重ねることによって小脳機能の特徴的な性格がとらえられる一方,解剖学・組織学によって小脳の構造のあらましが明らかにされた。この機能と構造の両面よりの研究の合流点において,1950年頃小脳における機能局在の思想が明確になった。今日神経学において用いられる小脳疾患の病状に関する基本的概念はすべてこの古典的段階の所産といってよい。
小脳研究の新段階は1950年以降微小電極と電子顕微鏡という2つの新しい技術の導入により幕を開けた。小脳およびこれに関連する諸組織においてそのニューロン要素の基本的性質が解明され,神経結合図が作成された。これにより小脳の神経機構についての理論的考察が促進され,小脳の神経回路網の構造が,学習能力を有する工学機械「単純パーセプトロン」のそれと類似していることが指摘された。まだ推論の域を出ぬ点は多々あるが,小脳が計算機的な能力をもつ一種の神経機械であって,生体に備わる諸種の機能の精妙な制御のために利用されているとの考えが強い具体性を帯びるに至っている。
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