Japanese
English
特集 脳の奇形と発生
化学物質,とくに医薬品と中枢神経系の奇形
Drugs and congenital anomalies of the central nervous system
西村 秀雄
1
,
谷村 孝
1
Hideo NISHIMURA
1
,
Takashi TANIMURA
1
1京都大学医学部解剖学第三講座
1Department of Anatomy,Faculty of Medicine, Kyoto University
pp.310-322
発行日 1972年4月10日
Published Date 1972/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1431903381
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はじめに
文明の所産たる薬物などの化学物質が胎児や子孫に先天異常など有害な効果を及ぼす可能性は医家のみならず一般人の重大関心事となっている。これはその効果が取り返しのつかない性質のものであるためであるが,元来薬物の有効作用は程度はとにかく一定の副作用のリスクを伴っているものである。全般としてのメリットをとるべきとの判断にたつ場合には,現代人が医療の進歩の成果としての薬物を適正に使用することは至当である。つまりなんらかの副作用の疑いが出されたからといって,直ちに当該の薬物を否定すべきであるという理窟にはならない。ところが一定数の死亡や先天異常はいつもいわば自然に発現しているもので,これらとたまたま用いられた薬物のもたらした障害効果とを厳密に分離することが困難な事例がしばしばある。このような事情で,薬物のヒト新世代への障害という問題に実地に対処する場合,よく結論を下し難いという境地に遭遇するのである。しかしとにかく今日まで得られている正しい知識を指南として対応するほかない。とくに中枢神経系の発生障害はいわゆる障害問題への施策の上でもっとも重視されているので,なんらかの御参考にとここで本題目に関する知識のうち若干の問題点を取り上げて紹介することとする。あり得る障害の本質として,生殖細胞に起される突然変異と受精後つまり胎芽や胎児の受ける障害とに分かたれるのでこの順序で述べよう。
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