Japanese
English
特集 代謝障害と神経疾患・2
糖尿病における神経系障害
Nervous System Involvement in Diabetes Mellitus
豊倉 康夫
1
Yasuo Toyokura
1
1東大冲中内科
1Prof. Okinaka's Clinic, School of Medicine, Tokyo University.
pp.1-21
発行日 1956年12月1日
Published Date 1956/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1431901538
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I.緒言
疾患がある特殊な代謝障害を基盤として成立つている場合,普通我々が『合併症』と呼びならわしているものの中には,広い意味でその疾患本来の病的過程の一部と考える方が一層適切であることが多い。原疾患に対する治療がそのまま合併症の治癒をも齎すことは多くの代謝性疾患において屡々経験される所であり,かかる場合は特に以上の考え方が正しいであろう。糖尿病における神経系障害もこのような立場から眺めるべき症状群である。
誰もが挙げているように,糖尿病患者の神経系障害を最初に記載したのはMarchal de Calvi41)(1864)であるといわれるが,彼は『糖尿病における神経系障害は,糖尿病の原因ではなくてむしろ結果である』と言明した。之は当時神経系障害は糖尿病の原因であつて結果ではないとする見解が一般であり,Claude Bernardの如き権威さえも之を信じていた状況の中で発表されたことを記しておかねばならない。現在では既に歴史的興味をとどめるに過ぎなくなつたとは云え,これら初期の論争も神経症状を単なる偶然の合併症ではなく糖尿病自体のsemiologyとして扱うべきことを教えている。1884年Bouchard42)は糖尿病患者の膝蓋腱反射が屡六消失していることに注目し,又翌年にはAlthaus43)が臨床的には脊髄癆と区別のつかない神経症状を呈する糖尿病患者を報告した。
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