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I.はじめに
HTLV-I-associated myelopathy(以下HAMと略す)は,1985年納らにより初めて発見され,1986年に報告されたHTLV-I感染により発症する脊髄障害を主とした神経疾患である1~3)。我が国では以前より,HTLV-I感染による成人T細胞性白血病(adult T-cell leukemia,以下ATLと略す)が問題となり,九州を中心に日本の南西端に多い疫学上の特徴を有していることが知られていた。HAMは一定の明確な病像をもち,ATLに伴う臨床症状および多彩な神経所見とは明らかに相違がある4,5)。HTLV-I抗体高陽性率地区でHAMが高率に存在することは,HAMの原因確立と疾患の実態および感染経路を検討するうえで重要な意味をもつ6)。一方,同じ時期に熱帯地方の特定地域で問題となっていた熱帯性痙性脊髄麻痺tropical spastic paraparesis(TSP)患者の症例において,HTLV-I陽性者が見出された7~10)。このTSP患者の分布も地理的に特定の地域に分布する特徴をもっている。HAMとHTLV-I抗体陽性TSPは,WHOの国際会議(鹿児島)以降HAM/TSPの総称で世界的に広く知られ11,12),現在疫学・免疫学・病理学・臨床医学・治療学などの広範な基礎研究および臨床研究が行なわれている。
とくに我が国でのHAM研究の進歩は著しく,疫学調査でも初めてのHAM症例が発見されてから数ヵ月の短期間で,HTLV-I抗体の高陽性率地域の病態調査と解析が行なわれた6)。また,この地域の疫学調査を基礎に,わずか1年で全国疫学調査が開始された13,14)。なおHAM発見当初より疫学的に輸血由来(水平感染)のHAMが同定され,即座に行政の対応がとられた15)。その後輸血由来のHAM発症は見出されていない事実が,全国疫学調査でも確認されている12)。一方,多発性硬化症(multiple sclerosis,以下MSと略す)とHAMとの関係については免疫学的機序が重要であり,Koprowskiの報告以降MS患者のHTLV-I抗体に関して1多くの追試および研究がなされてきている16)。本稿では,この1986~1987年に行なわれた全国疫学調査を中心に,HAMの臨床像について記載するとともに,輸血とMSの問題についても若干の考察を加える。
The nationwide survey of HAM in Japan had been carried out in 1986-1988. Through this survey, we obtained 432 cases with definite HAM and 94 cases with probable HAM. The diagnostic criteria for HAM as specified are: (1) slowly progressive spastic paraparesis with or without other neurological manifestations; (2) positive antibody to HTLV-I in both serum and CSF; and (3) exclusion of other similar neurological disorders. The male to female ratio of patients with definite HAM was 1:2.5 and their ages ranged from 11 to 80 years (mean: 52.9 years). These cases had a mean age of onset of 41 years (ranged from 5 to 80 years). A history of blood transfusion was obtained in 109 cases (25.2% of definite HAM cases). In the study about blood transfusion, we obtained the very important result that no HAM cases with a history of blood transfusion supplied by blood bank was reported after the blood supply screening started.
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