特集 今伝えたいクリニカル・パール—つくり方、使い方、活かし方
【“あの先生”のクリニカル・パールMy Best 3】
❽私のクリニカル・パール
藤沼 康樹
1
1生協浮間診療所/日本医療福祉生協連合会 家庭医療学開発センター
キーワード:
既往歴
,
トラウマ
,
受診理由
,
癌
Keyword:
既往歴
,
トラウマ
,
受診理由
,
癌
pp.1030-1032
発行日 2024年9月15日
Published Date 2024/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1429204982
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My Bestクリニカル・パール❶「既往歴」は存在しない
よく医師による症例プレゼンテーションでは、主訴、現病歴、既往歴、生活歴、家族歴などと患者情報が分散して述べられる。これが整理されたプレゼンテーションの枠組みとされ、あたりまえのように卒前医学教育からくりかえし使われている。この枠組みでは、当該の主訴に関する診断と治療に資するための情報として既往歴や生活歴、家族歴が集められ、それらは「背景情報」と言われる。プライマリ・ケアの現場では、患者の相談内容の主たるテーマが職業由来のケースも少なくないことはほぼ同意が得られるだろう。では、既往歴はどうだろうか? たとえば「10年前に胃癌で胃切除」は終わった問題なのか? 家族歴で、「子どもは息子が3人いるが、長女は4歳時に他界した」と患者から得た情報は「あ〜そうなんですね」となんとなく答えてよい問題なのだろうか? もしかしたら「また癌になるのではないか?」「入院や手術は二度と経験したくない」「死んだ娘に謝りたいことがある」などの気持ちがあったら、それは現在の医療やケアに深く関係する問題となっている可能性があるのではないだろうか。
トラウマインフォームドケア(TIC)とは、支援に携わる人たちがトラウマについての知識や対応を身に付け、支援の対象となる人たちに「トラウマがあるかもしれない」という視点をもって関わる支援の枠組みのことと言えるが1)、患者は上述した既往歴を大なり小なりトラウマとして捉え、心に傷を負う経験と考えるというのが筆者の臨床上のパールである。
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