特集 医師のウェルビーイング
【個人で取り組むウェルビーイング】
❺コラム「ワークライフバランスとウェルビーイング」—②ズレて生きる自分を受け入れる
神廣 憲記
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1名古屋大学大学院医学系研究科 総合医学教育センター
pp.683
発行日 2024年6月15日
Published Date 2024/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1429204836
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今から9年ほど前、私は疲れきっていた。シングルファーザーとして100%の家事育児を担いながら、臨床現場でフルタイム勤務する生活はもう限界だった。8時30分に保育園に連れて行き、18時に迎えに行く。プロとして仕事ができるのはその間の時間だけだ。しかし、いくら頑張っても私は一人前ではないような気持ちだった。当直ができないので同僚に申し訳なかった。重要な会議や教育セッションは保育園の開いていない早朝か夜に設定されていて、私のような存在は参加者として想定されていなかった。Facebookを覗くと土日に学会へ行った人々のキラキラした投稿が目に留まり、劣等感と疎外感を覚えた。ある日、寝かしつけに2時間かかってようやく寝息を立て始めた子の顔を見つめていると、さらに絶望する事実に気がついた。子の年齢を考えれば、このような「逃げられない」生活はさらに10年は続く。その発見は既にさまざまなことを諦めていた当時30歳の私のみぞおちを抉るように重くのしかかってきた。と同時に、私が思い描いていたキャリアがいかに「男性的」(家庭内ケアの役割を担うことを想定していない)だったかに気づかされた1)。
状況を好転させようとして、ウェルビーイングのために推奨されていることはほぼすべて試した。友人と話す、ジムに通う、マインドフルネスを実践する…。しかし、私にとって最も必要だったのは「やめる」2)ことだった。マッチョな職場や土日の仕事をやめた。学会参加やキャリア早期の留学を諦めた。Facebookを見るのをやめた。他人のサクセスストーリーを追いかけて生きるのをやめた。
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