- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
研修医の“立ち尽くすフェーズ”を乗り越えさせてくれる書
研修医と一緒にERで診察していると、症状から鑑別診断を考え、初期対応として何を行うべきかがわからずに立ち尽くしている状況を時々見かけます。研修医の成長段階について質的研究を行うと、それは“立ち尽くすフェーズ”と言われ、そう言えば若い頃の私たちもERで何をしたらよいかわからず、立ち尽くしていた時期があったことを思い出します。私たち指導医は、研修医がなぜ立ち尽くしているのだろうかと、彼らが立ち尽くす原因を“鑑別診断”するのですが、「バイタルが変化している患者さんにまずは何をしたらよいかわからない」「主要な症状からどのような疾患を鑑別したらよいかわからない」「疾患は想起できているが、診断を確定するための検査方針がわからない」など、その原因はさまざまです。なかには「何がわからないのかもわからない」といった答えさえも聞かれますが、そういった“立ち尽くすフェーズ”を上手に乗り越えさせてくれるのが、この『京都ERポケットブック』です。救急初期対応の最初のステップは普段どおりの落ち着いた思考でいること。青地に黄色の文字でERと書かれている表紙は、「ええ(E)からリラックス(R)してや」と優しく関西弁で語りかけてくれています。
本書の内容は、MBAホルダーの荒隆紀先生が執筆しただけあって、さまざまなフレームワークを活用し、臨床現場でカオスになりがちな種々雑多な行動をわかりやすくまとめてあります。患者のファーストタッチから緊急性を察知し呼吸と循環を安定させる「primary survey(初期評価)」、状態を安定させたうえで鑑別診断をあげツボを押さえた問診と身体診察を行う「secondary survey(二次評価)」は、本書を通して一貫した行動目標となっており、私たちも常日頃から研修医への指導や初期対応のセミナーで伝えているメッセージです。実は私たち指導医の行動も、このような型に基づいたシンプルな構成になっていることを、研修医のみなさんに知ってもらえるとうれしいです。「なんだ、いつも同じ原則で動いているだけじゃないか」と気づくことができると、“立ち尽くすフェーズ”の次のフェーズに移行することができます。
Copyright © 2023, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.