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「不定愁訴」という言葉が好きではなかった。「いろいろと訴えが多い(…大変だ)」といったニュアンスが、どことなく含まれている気がするからである。「不定愁訴」というラベルを貼った時点で、実は隠れているかもしれない器質的疾患を明らかにする可能性を自ら閉じてしまうような気がして、私自身は不定愁訴という言葉は使ってこなかった。自分への戒め、といった気持ちであった。そのことは、多くの診断がつかない患者さんが「どこへ行っても異常がないと言われた」「気のせい、年のせいと言われた」「でも本当に症状があるんです。つらいんです」と時には泣きながら訴えられるのを、大学病院で何度も目にしてきたことも影響していると思われる。
最近では「MUS(medically unexplained symptoms)」という概念も浸透してきたが、これについても明確な診断基準はなく、他の病態との重なりもある概念である。なかでも「機能性身体症候群(functional somatic syndromes:FSS)」は、特に重要な概念である。本特集を企画している時にちょうど発表された西山順滋先生の論文1)は、まさに自分が言語化したかったことが綿密なデータで示されたもので、膝を打つ思いで今回の総論(p.1300)をご執筆いただいた次第である。FSSを明確に診断することによって、混沌として見えるMUSの中に、一連の共通性をもった疾患群が浮かび上がるように思われる。FSSの疾患群は互いに合併することも多く、「中枢性感作症候群(central sensitization syndromes:CSS)」の概念とも重なることから、共通のメカニズムを有している可能性があるのではないかと感じる。MUSを少しでも可視化できたらという思いで、岡田宏基先生(宇多津病院 心療内科、p.1328)が提唱された概念図を、岡田先生とともにアップデートして掲載させていただいた(p.1298)。
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