特集 メンタルヘルス時代の総合診療外来—精神科医にぶっちゃけ相談してみました。
【総論2】
精神科の診断を再考する—精神疾患の「力動的モデル」とは?
西依 康
1
1自治医科大学 精神医学講座
キーワード:
精神疾患の定義
,
カンギレム
,
生物学的規範性
,
病気の力動的モデル
Keyword:
精神疾患の定義
,
カンギレム
,
生物学的規範性
,
病気の力動的モデル
pp.958-963
発行日 2021年8月15日
Published Date 2021/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1429203306
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“素人診断(lay diagnosis)”の問題
我々は日常生活のなかで、“素人診断”することがある。それは隣人や同僚、あるいは新聞に載るような社会的人物に対してであったりする。専門家としてであっても、談話室や議事録が残らない検討会のような場所で、——人格障碍注1)、発達障碍などといった——ある種の素人診断をしていないだろうか? 診断名の体裁をとってはいても、直接の診察や厳密な臨床推論を経ていないという意味では、精神科医による素人診断もありうる注2)。
こうした素人診断はほとんどの場合、診断される当人に伝えられることはない。おそらくそれは、診断される当人よりも、診断する我々のための診断なのだ。診断するということは、それがなければ露わになるであろう不安を覆い隠し、それに対処する勇気を我々に引き起こす。そしてこの不安を覆い隠すという点にこそ、診断の最初の役目は求められるに違いない。だから現代精神医学体系の祖であるクレペリン(1856-1926)もまた、現代のような診断がなかった時代に、精神病院で最初に感じた不安を書き残している。体系づけられた学問と、それに裏打ちされた診断がなければ、混沌とした病理現象を前にして、医師は途方に暮れるだろう。
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