Editorial
メンタルヘルスの時代と「リアルワールド」
藤沼 康樹
1
,
塚原 美穂子
1医療福祉生協連家庭医療学開発センター
pp.943
発行日 2021年8月15日
Published Date 2021/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1429203300
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2019年の米国のシンガーソングライターであるビリー・アイリッシュの大ブレイクが引き金となって、若者のメンタルヘルスの問題が大きくクローズアップされた。彼女のメッセージは、つらいときは「つらい」と声を出して助けを求めよう、助けを求めることはあなたが弱いことを意味するわけでない、ということだった。また、英国の批評家マーク・フィッシャーは、その著書『資本主義リアリズム』1)で強調しているように、資本主義や新自由主義のオルタナティブが構想できない中で、自己実現や成長を強いられ、結果は自己責任とされてしまうことが、西欧諸国で若者の精神疾患の罹患率の増加に結びついているはずと主張した。そして、若者のメンタルヘルスの悪化こそ、これ以上に完成されたシステムはないとされる資本主義が実は穴だらけの、不完全な構造物であることの証明であると記し、話題となった。メンタルヘルスの問題は、わたしたちが生きているこの現代社会の現在と未来に、重要な議論を投げかけている。
本特集を組むにあたって、普段カルチャー、音楽、文学などについていつも新鮮な刺激をいただいている、精神科医・塚原先生の全面的な協力を得ることができた。総合診療や家庭医療におけるメンタルヘルス問題に造詣が深い共同編集(企画)者を得たことで、読み応えのあるよい特集になったと思う。
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