Editorial
SARS-CoV-2パンデミックと家庭医
藤沼 康樹
1
1医療福祉生協連家庭医療学開発センター
pp.645
発行日 2020年6月15日
Published Date 2020/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1429202625
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文芸評論家である福嶋亮大氏のエッセイ1)によれば、SARS-CoV-2(2019新型コロナウイルス)の特異な性質の1つは、それによる感染の症状が、無症状〜感冒様症状〜急性肺炎〜多臓器不全までスペクトラムがあるものの、総じて嗅覚低下症状も含めて、呼吸器系の症状が中心であり、麻疹、エボラ出血熱、ペストなどに見られるような、急速に死に至るような劇的な経過や派手な皮疹や出血といった症状に乏しい、自己表現の「凡庸」さにあるという。さらに、無症状者が多いゆえに「どこに=誰に感染しているのか」がわからないようになっており、いわば自身の身を静かに隠す性質をもっていて、これを福嶋氏は「自己隠匿性」と呼んでいる。この凡庸かつ自己隠匿的である特徴が、東日本大震災後に懸念され続けてきた放射性物質の特徴との相同性があり、災害と復興の観点から今回のパンデミックに関する考察を加えているが、深いところで励ましを感じるエッセイである。
また、パンデミックの影響下、最も甚大な被害を受けた国の1つであるイタリアの若い小説家が緊急出版したエッセイ集2)には、物理学・数学を学んだ文学者ならではの、パンデミックに関する科学コミュニケーション力に優れた解説と、気候変動や環境問題との関連、個々人の生活と倫理をめぐる問題が、密度高く記述されている。そして、今この時期に、今後忘れてはいけないと思ったことを、個々人が書き留めておこうというメッセージが説得力に満ちている。
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