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TO THE EDITOR
本誌2019年5月号掲載論文「37 眼球上転発作」1)(以下、森永論文)につき、疑問を感じたので、以下に詳述する。眼球上転発作(oculogyric crisis)は筆者が研修医であった30年ほど前に、しばしば従来型抗精神病薬(特に高力価の薬剤)の副作用として観察された。その後は、非定型抗精神病薬の普及も相まって、臨床現場で見られることは少なくなった。眼球上転発作を起こした患者は軽く顔を上方に向け、「(また)目が上がった」などといい、治療を求めてくる。治療としては、抗パーキンソン剤である乳酸ビペリデン注射液(アキネトン®)を使い、速やかに症状は消退した。これは抗精神病薬の副作用として稀でなく、しかも「患者が下を見ようとしても見ることができない」という、かなり印象的な症状なので、当時の精神科では、この症状の出現に留意し、若年患者には、なるべく高力価の従来型抗精神病薬を処方しないよう、心がけていた。
さて、森永論文だが、眼球上転発作の原因薬剤として、ベンゾジアゼピンを挙げている。しかしながら、英文(PubMed®)、和文(医学中央雑誌)で、眼球上転発作の原因薬剤としてベンゾジアゼピンを挙げている論文を見つけることはできなかった。むしろ、眼球上転発作の治療薬として、ベンゾジアゼピン系薬剤のクロナゼパム(clonazepam)の有効性を述べる論文2)があるほどである。森永論文の5つの参考文献のいずれに眼球上転発作の原因薬剤としてベンゾジアゼピンが挙げられているのか詳らかではないが、少なくとも、眼球上転発作の原因薬剤をまとめた表を持つ、森永論文の参考文献53)には、眼球上転発作の原因薬剤としてベンゾジアゼピンは挙げられていない。向精神薬の神経眼科学的合併症については未知の部分も多いが、眼球上転発作の原因薬剤としてのベンゾジアゼピンは、医学界のコンセンサスがあるのだろうか。あるいは薬事行政的に副作用報告として確認されたものなのであろうか。広くご意見を賜りたく、一筆啓上した次第である。
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