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病歴
患者:59歳、独身女性。
主訴:腹部膨満。
現病歴:もと大酒家で、遅くとも7年前にはアルコール性慢性膵炎があり、6年前よりアルコール性認知障害(HDS-R=22/30)のため当院精神科にて無投薬でフォロー中。ここ2年はグループホームに入所中で、アルコールも煙草も断っており、嘱託医からメトホルミン、シタグリプチン(HbA1c=5.8%)、ロラタジン、ケトチフェン点眼液を処方されている。
いつからかは定かでない(>月単位)が、腹痛・嘔吐、食欲・便通の変化、尿量変化、発熱・寝汗、体重減少は伴わずに、徐々に腹満が進行していた。同時に左乳房に長径10cmあまりの巨大な無痛性腫瘤が認められたため、6週間前に当院乳腺外科を紹介受診し、胸腹部CT(図1)と左乳房腫瘤の針生検を受け、病理組織検査(図2)でTouton巨細胞を含む黄色肉芽腫の確定診断を受けた。腹部CT(図3)では、❶“omental cake”と表現される大網や腹膜肥厚を伴う多量腹水(胸水なし)、❷多数の粒状石灰化と著明な膵管拡張を伴う慢性膵炎、❸S字結腸の壁肥厚が指摘されたため、1カ月前に当院消化器内科に紹介され、膵癌マーカー、上腹部dynamic CT、MRCP、上部・下部消化管内視鏡、さらに17日前に腹水穿刺の各検査を受けた。その結果、肝胆膵および上下部消化管の腫瘍は否定され(胃粘膜に萎縮はあるが、ウレアーゼテスト陰性)、腹水はリンパ球優位の浸出液で、細胞診にて悪性細胞は陰性であった。6週前のCTでは、「右卵巣に囊胞の疑い」ともコメントされていたため、卵巣癌の否定のために9日前に婦人科に紹介され、内診、経腟超音波、子宮頸管細胞診、血清CA-125、骨盤部単純MRIの検査を受けた。その結果、子宮の後方に小腸の癒着、Pap;classⅡ(NILM)、血清CA-125;67.9U/mL(正常<35)、S状結腸の全周性壁肥厚を伴う大量腹水は指摘されたが、婦人科系腫瘍は否定的であったため、原発不明腹膜癌の疑いで総合内科に紹介となった。
身体所見:
●バイタルサイン:体温36.6℃、血圧109/72mmHg、脈拍数90回/分・整、呼吸数<18回/分、日付と場所につき指南力低下を認めるが意識清明で表情も落ち着いている。
●頭部:粘膜蒼白・黄染(−)
●頸部:甲状腺腫大(−)、頸静脈怒張(−)
●胸部:左乳房に弾性硬の巨大腫瘤(+)があるも、圧痛・皮膚変化(−)
●腹部:やや緊満感をもって腹水(+++)、圧痛(−)、腹壁血管拡張(−)
●上肢:腱反射は誘発できず、手掌紅斑(−)、振戦(−)
●下肢:両下腿に軽度のslow pitting edema(+)
●リンパ節:頸部・腋窩・滑車上・鼠径とも腫脹(−)
●皮膚:有意な色素沈着(−)、皮膚病変(−)
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