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はじめに
ウィリアム・ オスラーと腹部大動脈瘤
腹部大動脈瘤のリスク因子には、「65歳以上」「男性」「高血圧」「喫煙歴」などがあります1)。病歴聴取後には念頭になくても、拍動性の腫瘤を触知し「おおっ!」というケースから、突然発症の腰背部痛でショックを伴い「急げー!」といったケースまで、腹部大動脈瘤(破裂)は、われわれの前に突然姿を現します。症状が乏しく身体所見がはっきりしないことがあり、疑ってかかるか、リスク因子に基づいてスクリーニングをしなければ発見できないケースもあります。現在本誌では、「こんなときオスラー/超訳『平静の心』」が連載されていますが(p.1134)、そのオスラーは“There is no disease more conducive to clinical humility than aneurysm of the aorta.”と述べています。この言葉は100年以上前から伝えられていますが、現在の医療現場にも当てはまります(日々の診療の糧になる「こんなときオスラー」連載は、毎月欠かさず拝読しています!)。
CT全盛の時代にあって、急性期の場面では、「腹部大動脈の評価と言えば、エコーじゃなくてCTに決まっているでしょ」とお考えの方は少なくないと思います。もちろん、腹部大動脈瘤診断のゴールドスタンダードはCTであり、確実な診断と性状評価には不可欠です。しかし、うまく診療に超音波を組み込むことで、腹部大動脈瘤の診療の質向上に寄与できると考えられます。後述しますが、Point-of-Care超音波による腹部大動脈瘤の診断精度は非常に高いことが明らかになっています2)。超音波の専門家ではなくても一定のトレーニングを積めば、存在診断、除外診断が十分可能です2)。ショック・バイタルでCT室への移動が困難な場合の迅速な臨床決断のために、また病歴と身体所見を補う早期確定診断の手段として、超音波の有用性は注目されています。また医療経済的効果の観点に立ち、リスク因子のある方を対象とした超音波による腹部大動脈瘤のスクリーニングも行われるようになっています3)。
本稿では、急性期診療における腹部大動脈瘤の診断を中心に述べますが、スクリーニングとしてのエビデンスや大動脈解離についても取り上げます。
*本論文中、[▶動画]マークにつきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2019年7月31日まで)。
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