Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
解剖学用語集(改訂13版)1)にはこの領域に関係する用語としてはplica longitudinalis duodeni(十二指腸縦ひだ),papilla duodeni major(大十二指腸乳頭),papilla duodeni minor(小十二指腸乳頭)とM(musculus). sphincter ductus choledochi(総胆管括約筋)としてM. sphincter superior(上括約筋),M. sphincter inferior(下括約筋),ampulla hepatopancreatica(胆膵管膨大部)としてM. sphincter ampullae(膵管膨大部括約筋),glandulae ductus choledochus(胆管粘膜腺),ductus pancreaticus(膵管)としてM. sphincter ductus pancreatici(膵管括約筋),ductus pancreaticus accessorium(副膵管)しか記載がない.
しかし,この領域にはいまだに,Vater乳頭,Vater膨大部,Santorini乳頭,Wirsung管,Santorini管,Oddi括約筋など個人名の付いた名称が多く用いられている2).そのことはこの領域が解剖学的にも,生理学的にも古くから注目を浴びていたが,なかなかその本体が明確になっていないことを意味していると思われる.
ここでは,papilla duodeni majorを主乳頭,papilla duodeni minorを副乳頭,主乳頭に開口している膵管を主膵管,副乳頭に開口している膵管を副膵管,主膵管と総胆管が合流して十二指腸粘膜下層に形成される内腔部位を(乳頭)膨大部と称することにする.主乳頭,副乳頭はあくまで十二指腸内腔からみた名称である.Vater乳頭には,Vater乳頭癌(carcinoma of the papilla of vater)などのように,外見のみならず主膵管と総胆管の合流部やVater膨大部,さらにそこの筋群まで含んだ意味で使用されることも少なくない.本邦ではこの意味では(主)乳頭部といわれている.Dowdy3)はその著書の中で,vaterian systemとして,総胆管末端の突然細くなる部位から乳頭開口部までを,主乳頭,膨大部(common channel),総胆管末端の狭細部,主膵管末端,およびそれらに付随する筋組織,線維組織を含めた構造としており,そしてその詳細を報告している.
Wirsung管は,本来,膵の主要な導管として記載され,Santorini管は後にWirsung管とは別に十二指腸に開口する膵の導管として記載され,その開口部がSantorini乳頭と称されるようになった.発生学的には腹側膵が総胆管とともに回転して背側膵に癒合したときに両者の膵管系が交通し,いわゆる主膵管が形成されたので,主膵管の膵頭部側は腹側膵の導管であり,副膵管は背側膵の膵頭部側の導管である4).現在ではWirsung管は腹側膵の導管,Santorini管は背側膵の導管として使用されている.
Oddi括約筋は乳頭部の括約筋作用が注目されるようになって,その機能を持った総胆管を取り巻く括約筋として記載された.しかし,乳頭部の生理学的機能としては認められるものの,その解剖学的な同定には独立した筋群,十二指腸筋層から派生した筋群と両論がある.Dardinski5)は膨大部を取り巻く4,5本の独立した筋群をOddi筋としたが,生理学的な括約筋作用は持ち得ないとして,十二指腸筋層(内輪筋と外輪筋)を総胆管と主膵管が貫通する十二指腸窓近傍の内輪筋・外輪筋とそれから派生した膨大部を取り巻く筋群が括約筋作用を持つ乳頭括約筋であるとしている.さらに,膨大部にある粘液腺の頸部のレベルに薄い筋群が存在することも述べている.
Copyright © 2012, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.